経営戦略としてのマーケティング全体最適の実現が求められている
—最近の企業におけるマーケティング活動において課題になっていることは何だと思いますか。
藤原:企業のマーケティング活動をサポートする仕事をする中で感じているのは、経営戦略としてのマーケティングが必要とされていることです。部分最適の取り組みではなく、いかにして全体最適を実現していくかが大きなテーマになっていると感じますし、デジタル活用に際してもデジタルだけで閉じた戦略では機能しづらくなっているという認識が広まりつつあると思います。
アナログもデジタルもシームレスにつなぎ、一人ひとりのお客さまに合わせたコミュニケーションが求められているなかで今回、初めてDM大賞の審査に関わることをとても楽しみにしています。
徳力:第33回の大賞を受賞したディノス・セシール「パーソナライズDM」は、まさにデジタルとアナログをシームレスにつないだ好例と言えるでしょうね。
藤原:DMのようなアナログのツールの活用に際して、データを使うことで施策の精度を高める。インフラとしてのデジタル活用が機能しているのではないかと思います。
徳力:ディノス・セシールの石川森生さんは同社に入社した際、紙メディアの無駄をデジタル活用で削減できると思っていたけれど、実際には紙メディアの活用に無駄はなかったことに驚いたと話されていました。
デジタルに比べて紙メディアはコストがかかるので、実は活用方法はその分、洗練されていた。そこでコスト削減ではなく、DM施策の効果を高めるためにデジタルを融合させたということですね。
SNSとイベントの間をつなぐDMだからこそ機能する場面
—今の時代だからこそのDMの価値、可能性をどのようにご覧になっていますか。
藤原:私はこれまで若年層から比較的、年齢の高い方まで、多様な層のお客さまを対象にマーケティング戦略を考えてきましたが当然、年配の方にとって紙メディアの影響力は今も絶大です。さらに最近、感じているのは逆に若い世代にとって紙メディアが新鮮な手段として映っているということです。デジタルのコミュニケーションが浸透しているからこそ、自分宛てに届くお手紙であるDMは価値が高まっているように感じます。
徳力:そうですね。これまでデジタルの世界で仕事をしてきた私は、個人情報保護の観点から住所のデータは保有しない方がリスクを低減できるのではないか、取得するのはメールアドレスだけで十分ではないかと思っていたところがありました。ですがDM大賞の審査をする中で、今の時代におけるDMの価値を感じるように。
例えば私が手掛けるアンバサダープログラムではリアルな接点を重視しています。しかしSNSかリアルイベントかの二択になっており、その間をつなぐコミュニケーション手段があまりなかった。
その両者の間に位置するのがDMのような気がしています。
藤原:紙メディアのようなアナログの手段は、届いたお客さまに愛着を持ってもらえる可能性が高いですよね。例えば私は通販の事業では、商品を入れるボックスや同封するお手紙の内容など、クリエイティブに非常にこだわってきましたが、そうしたこだわりがファンをつくることにつながると考えているからです。
新規獲得だけでよい?既存顧客との関係性に可能性
—DM大賞の受賞作品には、必ずしも売ることだけを目的にしない事例も見られます。
徳力:近年の受賞作品を見ていくと、新規獲得だけでなく既存のお客さまに対して、ロイヤル度を高めるコミュニケーションの手段として活用しているケースが多くあります。必ずしも売ることだけを目的にしない、お客さまとの関係づくりにおいてもDMが活用できる場面は多くあるのではないでしょうか。
藤原:これまで、多くの企業がマーケティング予算の大半を新規獲得の施策に投下していたと思います。しかし最近、私は既存のお客さま向けの施策が重要ではないかと考え、提案をする機会が増えています。
徳力:私がアンバサダープログラムを提唱しているのも、既存のお客さまとの関係性が、実は新規獲得にも貢献すると考えているからです。でも、どうしても企業は既存のお客さまより、新規の潜在顧客にリーチすることに目が向いてしまいがちです。
藤原:ある商品を大々的にプロモーションし、新規顧客を獲得したいという企業の話を聞くと、その後のロイヤル化の戦略まで考えられていないケースが多いと感じます。既存顧客に向き合い、理解することで、どのような順番で商品を購入してくださるお客さまがロイヤル化しやすいかも把握できるのですが、どうしても新規に向かいがちで、その把握が十分にできていないのです。
また休眠状態になった顧客に対してアプローチする上では、DMのようなコミュニケーション手段が距離感として適切だとも思います。Eメールでいくらアプローチしても反応がない顧客にはDMを送ってみる。既存顧客向けの施策を考える中では、DMが力を発揮できる場面が多くあるのではないかと思います。
—DM活用に関するアイデアをお聞かせください。
徳力:DMが届いた先で自然にシェアされるようなクリエイティブの工夫が考えられないかと思っています。
例えばPayPayが100億円キャッシュバックキャンペーンを実施しましたが、支払い時に当選した人がその画面をSNSでシェアしていましたよね。あれは絶妙にシェアしたくなる気持ちを喚起するユーザーインターフェースになっていたからだと思うのです。これと同じようなことがDMでもできないか、と。
藤原:面白いですね。DMはEメールで言う開封率のような、届いた先でのリアクションが把握できない点がネックでしたが、その課題の解決にもつながりそうです。
徳力:これまでは見えなかった、DMが届いた先でのお客さまの感情がSNS上で可視化される。そんな活用可能性がありそうですよね。
藤原:デジタルだけで閉じた施策ではなく、立体的なマーケティング戦略が求められている今、DM大賞を通じて、新しいDMの活用法が多く出てくることに期待したいです。
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