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パラドックス 取締役
田島洋之
創業期から自社の採用・経営に携わりながら、現在はコピーの力を採用戦略から企業のブランディング領域へと展開。主な受賞歴は、TCC新人賞、OCC部門賞、リクルート社求人広告グランプリ、グッドデザイン賞、BtoB広告賞、宣伝会議賞金賞など。
私が宣伝会議賞に取り組んでいたのは、今からもう17年前。当時にして、すでに第40回。現在、中高生部門に取り組んでいるみなさんが、生まれる前からずっと続く、歴史あるコンテストです。なのに、歴代の作品を眺めていると、いまでもジーンときたり、クスッと笑えたりする。「部長が目にしみる。」※1、「父親の席は、花嫁から一番遠くにある。」※2……記憶に残る作品は、時代が変わっても、変わらない人間の面白さ、いとおしさが伝わってきます。
世の中のたくさんの賞の中でも、老若男女誰もが気軽に取り組めて、かつ、こんなにも面白い言葉の大喜利大会もなかなかないと思います。日本語独特の面白さを気軽に楽しむチャンスでもあります。身構えず、気軽な気持ちで、言葉の世界に触れるきっかけにしていただければと思います。
取り組み方のアドバイスですが、ひとつ「数を書いてみる」のも手です。
たとえばサッカーの「走る」や「蹴る」という動作を考えてみましょう。人それぞれで、同じ動作をしているようでも、その人の筋肉や骨格によってオリジナリティが生まれます。「書く」という行為に関しても同様で、その人らしく、無理なく自然に書けるフォームがある。そのフォームは、数を書いているうちに見えてきます。
私が運良く金賞をいただいたのは「アルバイト発見マガジン・an」様の課題。「お母さん、そのお皿の洗い方はなに?」というコピーでした。
受賞した当時、応募期間の約2カ月月で「毎日100本ちがう切り口で書くこと」を自分に課していました。20~30本ほど書いていると、「これは他の人でも思いつきそうだな」「なんかふつうだな」という壁が見えてきます。そのうち、40本ぐらいを越えてくると、自分ひとりの脳みそではアイデアが枯渇してきます。その中で、自分に課した100本という目標数を達成するために、編み出したフォームが「この商品が自分の生活の中にあったら、どんな会話がそこには生まれるだろう」という発想方法でした。
方法はいたってカンタン。「父親にこの商品を持たせたらなんて言うだろうか」「母親だったらどんなコピーにするだろうか」「友人Aくんだったら」「友人Bくんだったら」「あの先生だったら」と次々と身近な人たちの脳みそを借りていくのです。そうすると、自分の人格からは生まれない言葉が、無数に生まれてくる。そのすべてがコピーになっていくわけではありませんが、さまざまな切り口、想像力がお手軽に無数に手に入ります。
受賞作は、私の姉が高校時代、はじめてアルバイトをした後の、その時の言葉そのものです。夏休みに、ドキドキしながら出かけたはずが、帰るや否や、母に誇らしく語っていたんですね。「お母さん、そのお皿の洗い方はなに?」と。母も笑っていました。
アルバイト、はたらくことを通して、人は、子どもから大人へとちょっと成長する。親たちもその姿によろこびを抱く。自分では「他にはない言い回しだから一応出しておくか」程度だったのですが、一行の中に、偶然、たまたま描かれていたそんな意味合いを、審査員の皆さんが鋭く拾ってくれたのです。
自分が審査する側になってみると、何本ものコピーを連続で見ていても、明らかに独特の光を放つコピーは瞬時に目に飛び込んできます。マネじゃない。ほかにはない。思いつきの言葉遊びじゃない。その人にしか書けない言葉。その人の、生活が見えてくる言葉があります。
商品やサービスを、ひとつひとつ、身近な人と人の間に置いてみてください。やさしい家庭に育ったのなら、やさしい言葉が聞こえてくるでしょう。やんちゃな環境に育ったのなら、きっとやんちゃな言葉が聞こえてくるはずです。一人ひとりの人生のバックボーンと、それぞれの企業や商品との化学反応で、それだけでもう数十本、あなたにしか書けない、とってもチャーミングなコピーが無数に生まれてくるはずです。
いいコピーは、人。いい言葉は、人生。私自身は、そのような心持ちで、毎日言葉と向き合っています。人にも、言葉にも、これが正解なんていうルールはありません。言葉ほどおもしろい宇宙はない。日本全国、言葉の祭りを楽しみましょう。その楽しみの中から、ひとりでも多く方々が、言葉の豊かさを仕事に変える、私たちの職業に興味をもっていただけたらとも思います。