同じ案件で再エントリーしてみる意義
—もう一つ悩ましいのは、解決のあり方、成果の現れ方だと思います。もう少し成果が見えてからのほうがいいかな、とか、どのタイミングでエントリーしたらいいのか、と悩む方はとても多いようです。
個人的には、初エントリーで賞を取ることにこだわらなくてもいいのではないかと思っています。私の場合、コンカーの「領収書電子化の規制緩和PRプログラム」で2016年度のPRアワード グランプリを受賞しましたが、実はその前年に同じ案件でエントリーしたところ、そのときは書類選考の段階で落ちています。
エントリーした時は、規制緩和の見込みが立っていたもののまだ確定していなかったため、アワードとして評価されるには時期尚早だった部分があったかもしれません。しかし、1年経つとファクトや成果で言えることが増え、内容をより重厚に伝えることができます。リレーションズというものは常に変わっていくものですから、1年経ったら、より良い方向となり、それが成果として表現しやすいものになっているかもしれない。
だから、一度だめだったとしても、同じ案件でリライトしてもう一度チャレンジするのも良いと思います。過去に出した案件を捨てずに、もう一度トライすることで、より客観的にケースを見直すことができるかもしれません。知見を共有する機会が増えることは業界全体のためになります。何より素晴らしいプロジェクトに関わったクライアント企業やPRパーソンの方々に、PRの観点からしっかり光が当たる機会があることは重要だと思います。
業界全体の発展につなげるために
—昨年のグランプリは、大和ハウス工業の「家事シェアハウス」でしたが、これは、クライアントとPR会社が、一つのチームとなり、プロジェクトを進めた事例として高く評価された印象があります。事業会社や独立系PR会社からのエントリーももっと増えるといいですね。
課題解決のためにどうしたら良いか、両社が連携してディスカッションを重ね、共有したうえで、ともに考え、ともに創っていったという印象を受けました。こうした共創関係が、いまの時代には必要なのではないでしょうか。特に関係構築に関わるPR業界にこそ求められているのかなとも思います。
自分たちが顧客のためにも、社会のためにも良い仕事をしたという自信をもってエントリーすることが大切かと思います。それを適正に評価してもらうには、どういう書き方や見せ方をして、どんなファクトを揃えなければいけないのか、ということをしっかりと考え、深めていく──。そこを反映すれば、10人の審査委員の誰かに、絶対に届くと思います。
昨年、審査会が始まる前に、審査委員長の嶋浩一郎さんが「PR業界全体の発展につながるような事例をちゃんと評価したい」とおっしゃったことが印象的でした。
欧米と比べると、日本はPRの歴史が浅く、人材もまだまだ少ない。しかもPRという言葉は広告やプロモーション、アピールなどの言葉や概念と誤解や混同されがちです。だからこそ、啓発の意味も込めて、良い事例を業界としてしっかり世に発信していくことは重要です。本アワードの意義は、パブリックリレーションズが何たるかを日本社会に示していく点にもあると強く感じています。
横田和明(よこた・かずあき)
井之上パブリックリレーションズ アカウントサービス本部 戦略企画部部長
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。大手住宅メーカー営業担当を経て、井之上パブリックリレーションズに入社。これまでに、化学、半導体、情報セキュリティ、クラウド、協会など幅広い分野のクライアントを担当。CSRやプロボノの一環でNPOをはじめとする公益性の高い団体にもアドバイスを行う。2016年に主導した規制緩和プロジェクトで国際PR協会アワード部門最優秀賞、日本PR協会PRアワードグランプリを受賞。ビジネススクールや学会、PR協会、広報勉強会などで講演多数。日本PR協会PRアワードグランプリ2018・2019審査員。日本マーケティング学会会員。100年後の未来を象徴するドラえもんが好き。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー資格保持。