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サイバーアタック、権利処理…未来のビジネスモデルが生み出す新たなリスク
全7回の本連載も、今回で最終回となった。これまで消費者の変化に合わせて、“マス”メディア企業にもパーソナライゼーションが求められている背景について、説明してきた。最終回では、その先にある未来について、具体的にはメディア企業の未来のビジネスモデルにより生まれる新たなリスクについて、解説していきたい。
消費者がメディア、コンテンツ体験に求める要素が変わり、放送と通信の融合が進むと、コンテンツのあり様が変わり、メディアの枠組みも大きく変わる。そうなると当然、今まで想定しなかったリスクへの対応が求められるようになってくる。例えば、放送波を通じてのコンテンツ提供では、サイバーアタックのリスクを心配する必要性は高くなかったが、通信インフラを使った同時配信が実現すると、サイバーアタックのリスクだけではなく、ウイルス感染などにも対応する必要性が高まってくる。
またクロスメディアでのコンテンツの利活用が前提となれば、その権利クリアランスに関してもより詳細なルール決めや、権利付与の在り方そのものにも変革が求められるようになるだろう。
さらに大きなテーマはパーソナライゼーションがより進むと、その大前提となる「個人情報の管理」ルールについても、現状よりさらに厳格な管理が求められるようになっていくということだ。
OTT(over the top)でパーソナライズされたコンテンツを楽しむことができるのは、逆の見方をすればOTT事業社が我々の行動をデータとして取得、把握し、その動向をつぶさに見ているから実現できることである。
現在、GDPRをはじめとした個人情報保護、つまりどのように消費行動データが使われるかについては、消費者の権利を守る方向に向かいつつある。パーソナライゼーションは、メディア企業が消費者のデータを取得するから提供できる価値であり、そこではメディア側と消費者側にデータの利活用に関する信頼関係を構築することがより重要になってきている。個人情報という宝物が、光の速さで拡散する中、たったひとの大きな間違いが深刻なダメージを引き起こすことになりうる。
実際に国内外で最近、個人情報利用についての問題が起きていることは、皆さまご承知のとおりかと思う。
配慮が必要な一方で、これらのリスクに過度な対応をし、過剰投資をしてしまえば、ビジネスのレベニューという観点からみるとビジネスチャンスの毀損を生むことにもつながりかねず、どの程度の最適性を担保すればよいのかも判断が難しいところである。例えばGDPR基準を厳格に適応するEU諸国の場合、パーソナライゼーションのサービス自体が後れを取らざるを得ない状況となっており、この領域における成長という観点からみるとネガティブドライバーとしてこのルールが働いている。
一方、行きすぎた個人情報の活用はプライバシーの侵害というリスクを助長させることも事実である。未来に向けたイノベーティブなビジネスモデルを構築する際には、これらのリスクへの適切な対応と適度な投資というバランスの取れた行動を取ることが重要である。
アドフラウド、ビューアビリティー、ブランドセーフティーという3大問題への対処
本稿では、伝統的なメディア産業における未来像に関しての示唆を中心の論点としてきており、基本的にはデジタルメディア業界の範疇に関しては直接的には触れていない。しかし、伝統的なメディア産業が既述のように進化を遂げるとすると、デジタルメディアのカテゴリーで起こっているリスクと同様の現象が流入してくることは容易に推測できる。それらのリスクへ対応するためには、既存のデジタルメディアの3大リスクと呼ばれているものについて対処する準備を整えておくべきである。そのリスクとは、
1 アドフラウドへの対応
2 ビューアビリティーのチェック
3 ブランドセーフティーの担保
である。ネットを使ってコンテンツ配信を行うとなると、従来のメディアKPIであるリーチを基準とするKPIが使えなくなる。TV局にとっての視聴率、ラジオ局の聴取率、紙媒体の発行部数などのことである。
ネットコンテンツ配信におけるKPIはデジタルメディアでは様々な議論がなされているが、多くが「インプレッション」「UU(Unique User)」「PV(Page View)といった量的な指標と、いかに目的のページを最後まで見せたかという各種エンゲージメント指標である。この中の量的なPVなどの指標が、いわゆるアドフラウドやビューアビリティー問題という一種の詐欺視聴のリスクにさらされている。
この問題における解決方向を示す以前に従来のKPIとデジタルプラットフォーム上のKPIをどのように関係づけ、どのようにすみ分けるのかの議論が先に来るだろう。現在、放送局、出版社ともにそのKPIは統計学的処理をしたものであったり、業界の独自調査基準であったりと全数データから導き出されたものではない。
しかし、デジタルプラットフォーム上では全数データのトラッキングが可能であり、広告主や消費者に透明性のある説明責任を果たすことが大前提となる。そのうえで、既述したリスクであるアドフラウド問題、ビューアビリティーの担保などを考慮するべきであり、2段階の改革が求められる。
3つ目のブランドセーフティーの問題は伝統的なメディアでは、コンテンツを提供するプラットフォーム自体が自社メディアであるために起こりえなかったリスクである。しかしデジタルプラットフォーム上でのパーソナライゼーションビジネスを行う上では、その潔癖性を担保することから始めなければならない。意図せず、コンテンツが転用されることで起こりうるブランド毀損のリスクや、コンテンツそのものの改ざんの防止に労力を割く必要がある。