メディアオーディット、アド・フォレンジック…クライアントに対するアカウンタビリティの在り方
広告業界には「アカウンタビリティ」という言葉がある。広告主に対して、適正に広告が掲出されたか、そのコストは適切であったか等々を説明する責任のことである。前章で述べたようにデジタルプラットフォームやビッグデータを活用した新しいスキームでのビジネスモデルに転換し、パーソナライゼーションを実行するためには、より厳格な「アカウンタビリティ」が求められるようになることは明白である。
原則として、日本のメディアや広告会社は広告主からの監査を受け付けていないが、データトラッキングが容易になる近未来のビジネスモデルでは、クライアントからの監査要求は、より激しくなると推察される。トラッキング可能なデータが存在しており、トラッキングの手段も存在しているわけであり、バイイングから実行のプロセスの中でそれらをレポートしてPDCAサイクルを適切に回していくことが、クライアントに対する広告投資のアカウンタビリティにつながる。
また、このサイクルの中で人が関与するレポーティングプロセスに関しても透明性が求められる。かつて地方の放送局での放送確認レポートの改ざんが発覚し、放送の信頼性を揺らがせた事件があったが、こういったことがデジタルプラットフォーム上でも起こらないようにするためには、オペレーションする人間自体の手続きの可視化と透明性の担保が同時に求められる。
そこで提案したいのが、「アド・フォレンジック」という考え方だ。フォレンジックとは、もともとは警察の犯罪捜査で用いられる言葉で、鑑識や科学捜査という意味であるが、近年は「コンピューター・フォレンジック」という使い方もされる。情報漏洩や改ざん、不正アクセスなどイリーガルな痕跡を自動的に探し出すことのできる技術のことである。未来のメディアオペレーションにもこのような「フォレンジック」の概念を導入することがよりクライアントへの説明責任の明確化につながると考えられる。
おわりに ー 日本発、世界へ パーソナライゼーション時代の新しいメディアビジネス
今、マーケティングの世界ではデジタライゼーションが急速に進行しており、いわゆる「デジマ」と呼ばれるWeb上でのマーケティング施策がマスメディアを活用したマーケティング施策を凌駕する勢いである。またマーケティングオートメーションツールの導入やデータ分析を基にしたパーソナライゼーションが加速的に進んでいる。
しかし、これだけテクノロジーが進化し、デジタライゼーションが進んでいるにもかかわらず、その施策の理論的な背景は、相も変わらず購買ファネルを上から下におろしていくウオーターフォール型と呼ばれる方法論を採用している企業が多い。
また、マーケティング理論もペルソナを作成することからスタートする非効率な最大公約数理論がデフォルトになっている。人を中心に据えたパーソナライゼーションに注目が集まっているにもかかわらず、マーケティングの施策の方向性は今までと大きく変わっていない。
現在のようなパーソナライゼーション黎明期においては、新たなルールづくりが求められる一方、米国で開発された伝統的なマーケティング理論や既存のメディアビジネスを凌駕する、パーソナライゼーション時代にふさわしいアイデアやメディアビジネスを生み出すチャンスがそこにあるはずで、それを日本から発信できないかという強い思いから、このコラムを書かせていただいた。
もし、本コラムからインスパイアされた方が少しでもいて、その方々からイノベーティブな考えやビジネスアイデアが生まれ、メディア業界のみならず、日本のビジネス自体が世界をリードしていくようなことになれば、これほど幸せなことはない。