よそ者によるよそ者のための福岡転勤者講座 その③(上級?編)~~「地元愛」とのつきあい方~~

【前回】「よそ者によるよそ者のための福岡転勤者講座 その②(中級編)~~意外に知らない福岡流儀~~」はこちら

出張や転勤などで、馴染みのない土地でビジネスをすると、「え、そんなしきたりがあったの?」と「ご当地ルール」に驚かされることがあります。地元の人にとっては「当たり前」のマナーでも、よそ者はまったく知らなかったということも少なくありません。本コラムでは、住み慣れないまちに足を踏み入れるときの心得やマナーについて紹介します。第1、2回に続き、今回も福岡。西日本新聞社取締役石井 歓さんにご自身のエピソードを交えながら、福岡への転勤者のためのアドバイスをしてもらいました。

この講座も最後の上級(?)編となった。今回は少し刺激的な記事を読んで頂こう。
「本当は福岡が大嫌い?転勤者が本音トーク」(2016年12月20日西日本新聞)

色々考えさせられることが多い記事だが、この稿で取り上げたいのは最後に出てくる福岡の人の「地元愛」だ。この記事では地元新聞らしく「地元愛」の押し付けに関する地元民の反省で終わっている。そこまでの反省が必要かな、とは思うものの、真実の一端が垣間見えている。

私などは(もう東京には住んでいないけれど)「江戸っ子」としての矜持を密かに持ってはいるのだが、日常それを口に出すことは滅多にない。(前回の「その②」でちょっと口が滑ったが。)一般に福岡の人は「地元愛」をストレートに表に出すことが多いのは確かだろう。

そうなると、われわれよそ者としてはこれとうまくつきあうのが必須科目となる。嫌いなものを好きだと言って媚びる必要は全くない。巨人ファンなのにホークスファンのふりをすることも勿論ない。しかし、自分が気に入った福岡のいい所は恥ずかしがらずに思い切り褒めよう。福岡の人は本当に心から喜んでくれる。

「地元愛」について知識として知っていても面白くもない。実際にリアルな「地元愛」に近づいて、その恩恵に浴し、あるいは被害(?)を受けよう。もちろん独身者であれば「地元愛」でなく単なる「愛」でもいい。その辺りは勝手にやってほしい。

最初の福岡赴任のとき、少し年上の不動産屋と会った。土ぼこりのたつ通称「カネボウ跡地」。住吉の広大な空き地で初対面の私に大規模開発の夢を語ってくれた。私がよそ者とわかっても博多弁をやめようともしない。酒が入ると何を言っているのか聞き取れなくて閉口した。

同じころ、夜中に酔っぱらって春吉橋を渡っていると後ろから乱暴に抱きつかれた。一瞬強盗かと思って身構えたが、よく見ると少し前に仲良くなった地元新聞の経済記者だった。当然向こうも酔っぱらいだ。「石井しゃん、こげんとこでなんばしょーと?」(博多弁聞き取りの正確さは保証できない。)結局2時まで飲み直した。

不動産屋は「キャナルシティ博多」が出来上がると「すぐに見に来んか」と連絡して来た。21世紀に入って中国に拠点を移し、上海や南京で開発を始めた時は工事中のプロジェクトを熱心に案内してくれた。博多祇園山笠の櫛田入りで「台上がりをせんか」と言ってきて私をびっくりさせた。「八番山笠上川端通」に永年貢献した彼は、数年前に私を先に台に上げて、自分はやっと今年上がった。

経済記者は東京で私が銀行の広報課長、彼が日銀クラブのキャップだった時に色々と助けてくれた。長崎総局長の時は福岡支店長だった私に「知事が怒っとるけんすぐに会いに来んか」と電話して来た。知事がご立腹だったのは、私の銀行に関する件で彼の新聞に掲載された記事が原因だった。「あんたのせいだろ」と言いたかったが何はともあれ知事室に駆けつけて事なきを得た。

2人とも「地元愛」は半端ではなかった。「とんこつ」「ホークス」「やわらかいうどん」等の定番の「地元愛」はもちろんだが、地元民として中央に対する静かな対抗心を秘めていて、江戸っ子の私にもそれを迫って来た。不動産屋は2006年当時、オリンピックを東京に取られてなるものかと、福岡誘致を必死に進めていた。経済記者は東京一極集中で(彼の目から見て)地方切り捨てが進む状況を憂い、「あーたどう思うね?」と訊いて来た。

私も全力で受け止めた。どうしても受け入れられないときは全力で打ち返した(?)。「てやんでー。こっちは江戸っ子でえ。そんなにいつも同調できるわけねーだろ。べらんめー。」

時は流れ、私は福岡に移住し、この2人がいた会社で順番に働くことになった。その人事に2人が関わったわけではない。「地元愛」とは関係のない、ビジネス上の関わりの中で縁があってそういうことになった。2人ともそれがわかった時はびっくりしていた。でも「縁」の主要部分にこの2人がいることは確かだ。

先輩に敬意を表してこの稿では登場してもらったが、もちろんこの2人だけではない。課長・支店長で赴任していた時は年下の同僚・友人たちからそれこそ半端ない地元愛攻撃を受けた。また歳を重ねるにつれ、いつかは福岡に帰りたい在京者の思いにもたくさん接することになった。そういう中で私自身のキャリア・人生も徐々に福岡へと向かうことになっていった。

よそ者によるよそ者のための「福岡取り扱い説明書」。結びの項は以下の通り。

「地元愛はうまく取り扱えば、福岡に溶け込み、福岡生活を楽しむ上で大変役に立ちます。但し、使い方を誤るとあなた自身が福岡というブラックホールに堕ちることになりますので注意しましょう。」

みなさんの「地元愛」とのおつきあい、これからどんな展開になるのだろうか?

ショッピングモール、映画館、劇場などが連なる複合施設、キャナルシティ博多の上空。(写真提供:福岡市)

やわらかいうどんに、ごぼう天がクセになる……(写真提供:福岡市)

石井 歓(イシイカン)

事業構想大学院大学福岡校特任教授。西日本新聞社取締役(ビジネス開発局管掌)。日本ピストンリング社外取締役。3足のわらじで老骨に鞭打つ。日本政策投資銀行に33年間勤務の後、倒産したJALの再建に参画。2011年福岡に移住後は福岡地所、続いて西日本新聞社の経営に携わる。

出張・転勤前におさらい!ご当地マナー
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