顧客の“痛点”の発見が、機能だけではないブランド価値づくりにつながる—イデアインターナショナル、日本コカ・コーラ、Peachの戦略

他社にある価値をプラスするのではなく、顧客の“痛点”を洗い出す

星野氏と河合氏の2名から「機能訴求だけではメッセージが伝わりにくくなっている現代において、いかに消費者にとって価値あるメッセージを開発できるか」という共通の課題が上がった中、議論が盛り上がったのがPeach 野村氏の発表である。

飲料、機内食、荷物持ち込みなど本人の選択なしにすべてがパッケージ化されて提供される通常のエアラインと異なり、それらサービスをオプションとして提供することで、手頃な航空運賃を実現しているLCC。日本初のLCCであるPeachも「空飛ぶ電車」を標榜して、通常のエアラインとの差別化を図っているという。

「LCCの認知度はまだ低く、利用促進が課題。一方で、その解決策として他のエアラインと同じ、顧客満足を高める方向に進んでしまうと、原価が上がり、『手頃な航空運賃』というLCCにとって最大のバリューを失う。サービスを拡充するのではなく、顧客体験を毀損する“痛点”をカスタマージャーニーの中で明らかにし、それを潰していくことで『期待していたよりも良かった』という顧客満足をつくりたい」と野村氏。

「空飛ぶ電車」というコンセプトも、“丁寧なサービスありき”と捉えられがちな従来のエアラインとは似て非なるものである、というメッセージが込められている。「期待値を下回った時に不満を感じる。はじめから『移動手段』として比較してもらうことで、手頃な航空運賃であることや、スピーディーに搭乗できることの価値が伝わる」(野村氏)。

この顧客体験にとっての“痛点”となりうる部分を洗い出してカスタマージャーニーにまとめる、というアプローチ方法に星野氏と河合氏も注目。

「どうやって痛点を洗い出しているのか?」(河合氏)の質問に対して、野村氏は「2つアプローチがある。ひとつは、お客さまの声を集めること。もうひとつは、空港職員や客室乗務員、コールセンターのオペレーターなどの顧客と接する人から『どこが“痛点”になっていそうか?』の声を吸い上げること。どちらのアプローチにせよ、挙がった意見をもとに、お客さまに『こんな経験をされたことがあるか? その時どう感じたか?』と聞くと、多くの人にとって“痛点”になっている箇所が明らかになってくる」と答えた。

この野村氏の発言に対し、星野氏からは「男性と女性でマイナスに感じる要素が異なるのでは」との質問があった。

野村氏もその問いに頷きながら「体験は個人や状況、さまざまな要素に左右される。重要なのはすべてを改善しようとしないことで、例えばLCCの場合、他のエアラインと比べて少し座席間隔が狭め。国外への長距離フライトであれば座席間隔の狭さは多くの人にとって“痛点”になるが、電車のような短距離の『移動』と捉えるなら、許容。むしろ座席間隔の狭さを改善することで価格が跳ね上がってしまえば、我々の強みがなくなる。どこを改善すべき“痛点”として選ぶのか、の設定が大事」と話す。

どの“痛点”を解消するか?にブランド独自の価値が出る

こうした議論の中で、河合氏は野村氏の「“痛点”を見つけて解消する」という発想と、星野氏の「商品があることで実現する世界を考える」という発想は、根底ではつながっているのではと指摘した。

ライフスタイルそのものが多様化している中で、同じ機能の商品を使用しても「どういった体験をし、どこに価値を感じるか」、あるいは「体験のどこにマイナスを感じるか」は人それぞれで、多様化している。機能ではなく個々の体験価値の訴求、痛点の洗い出しがさらに求められているのもこうした背景があるからだ。「だからこそ、今まで誰も表現していない、それでいて多くの消費者が共通して感じている“痛点”が言語化できると、非常に高いブランド価値になる」と河合氏は考察。野村氏・星野氏も同意した。

この後、各社の顧客体験を改善させるアイデアについてもディスカッションを行ったが、別業界からの意外な視点に盛り上がる中で、「やはり顧客の声、特にファンの声の中に、企業側が気づいていない意外な“痛点”や、商品によって実現できる新たな生活のアイデアがある。それらをうまく拾っていくことが、今後ますます重要」と、三者から声が挙がっていた。

「どのように現代ならではの課題と向き合うか」「今だからこそ、どのような付加価値をつくるか」について企業の枠を超えて議論が盛り上がった、第26回の研究会。「JAPAN CMO CLUB」の加藤氏は「今回の研究会は、各社のマーケティング課題を非常に深掘りして議論する場になった」と振り返る。

「業種やビジネスモデルが違っても、マーケターが抱える課題には共通点があることが多い。そして同じ課題に対して、各社がどのように解決のアプローチをとっているのか、知見をシェアしあうことで、自社に持ち帰ることができる戦略のアイデアも生まれるはず。さらに今後は、この知見を参加する企業内の課題解決だけでなく、広く社会課題解決のために生かしていこうと考えている」とコメント。

6年目に突入する「JAPAN CMO CLUB」は100社を超える参加メンバーと共に、新たなステージに突入しようとしている。

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