理系専攻で培った論理的思考がコピーライターに役立つ
コピーライターには直感的な閃き型だったり論理的思考型だったり、いろいろなタイプがいる。その中で、電通でクリエーティブディレクター・コピーライターとして活躍し、第57回「宣伝会議賞」の審査員を務める山本友和氏は、自身を論理的思考型だと分析する。
論理的思考型コピーライターである山本氏だが、その理由のひとつに、理系出身であることが影響しているようだ。山本氏は、大学院では爆薬の研究をしていたという、広告業界では異色の経歴を持つ。
理系を専攻した山本氏だが、実は幼少時代から広告には親しんでいた。ただ広告業界やコピーライターという仕事があることを知ったのは大学入学後のこと。そして就職を考えた時に、このまま爆薬の研究を続けるか考え、広告をつくりたいとコピーライターを志すことになった。
そして電通に入社したが最初は営業部へ配属された。その後コピーライターになるため、「宣伝会議賞」への挑戦などを経て、3度目のクリエーティブ転局試験で転局を果たした。
広告企画を考えるのは公式と同じ 論理的思考で”公式”に当てはめる
以後、ダイハツ「WAKE兄弟」、KIRIN 午後の紅茶「あいたいって、あたためたいだ。」などの仕事を手掛けてきた山本氏。コピーライターとして仕事を続ける中で、論理的思考のメリットはどう生きているのだろうか。
「広告の仕事において、アイデアをロジカルに発想していく良さは、論理的にそのクリエーティブに至った根拠を提示できること。クライアントに通りやすく競合にも勝ちやすくなるというメリットがあります。また、論理的なのでクライアントの目的やビジネスに貢献しやすく、そのため広告企画も長続きします」。
では、山本氏の言う論理的思考力とはどのようなものなのだろうか。「そもそも自分の中に書きたいものがあって書く文学と違い、広告コピーは目的があって考える文章です。そして、その目的を達成するためには、『誰に』『何を』『どうやって』伝えるかを考えることが必要です。これは、ある種の”公式”のようなもの。『どうやって』には文学的な要素が必要とされるかもしれませんが、その土台となる”公式”に当てはめる力が必要ですし、そこに求められるのが論理的思考力なのです」。
最初の2時間は机に向かう その後は常に思考している状態に
論理的思考を大事にする山本氏だが、普段の仕事ではどのようにアイデアのタネを考えているのだろうか。「まず2時間は机に向かい、課題について調べたり仮説を立てたりしてひたすら考えます。その2時間を過ごすと、トロッコが一度動き出したら止まらないのと同じように、脳が思考状態になり、日夜ずっと考え続ける状況になります。並行して複数の課題を考えているのですが、それぞれ視点が異なるため、他の課題のための思考が刺激になってアイデアを思いつくこともあります」。
またCMプランナーとして、コピーに至る前段階に、多くのストーリーを出すようにしているという山本氏。「言葉だけでなくストーリーから先に考えます。どのような人物が登場し、どのようなトーンの企画かを考えていくのです。その人物が発言したり、その人物の登場する世界観であったりということを考慮すると、それらが条件や理由となるので、何もないところからコピーを考えるよりコピーを考えやすくなります」。
このように論理的に企画を考えていくと、おのずとコピーは定まってくるという。また、文字情報だけの1行のコピーで「人を動かそう」と思うのは、ビジュアルや音声もある情報量の多いCMなどに比べて難しいため、企画先行で考えるほうが難しくないと語る。
自分をいろいろな状況に置いて多様な思考を生み出す
「宣伝会議賞」に挑戦するなかで、着想に苦労する人もいるだろう。そのような時にどうしたらよいのだろうか。「宣伝会議賞」への応募経験があり、審査員を務める山本氏に聞くと、3つのアドバイスが返ってきた。
「ひとつめは視野が狭くなっていないか、疑ってみること。疑うことができたら『行き詰まる』という状況から抜け出せているはずです」と語り、視野を広げる方法について言及した。
「自分をいろいろな状況に置いて、様々な自分の状態になって考えてみると良いと思います。具体的な方法としては、時間や場所を変える、歩く、などです。特に僕は、お酒を飲んで固定観念を取り払って考えて、その時に考えた内容を、お酒を飲んでいない時にロジカルに構築して企画案をつくることがあります。お酒を飲むというのは、脳を違う状態にするためです。未成年の人にはアドバイスになりませんが……。
まあお酒は一例、例えば歩いている自分と机にかじりついている自分も違いますし、人と話している時の自分とひとりでいる時の自分でも思考が変わるでしょうし、自分をわざといろいろな状況に置いて、自分の中で思考を変えてみることです」。
2つめは「人格を変える」ことだという。「ターゲットにこだわらず、お母さんだったらどう思うか、子どもだったらどう思うか……というように様々な人の視点に立ってどう思うかを考えます。トヨタ自動車の『子ども店長』は子どもがターゲットだったわけではありませんが、子どもの目線で見ることによって俯瞰的に見ることができた事例だと思います。近道にこだわらないことが、結果的に近道になったりします」。
3つめは、「読後感から考える」こと。コピーを見た人がどういう気持ちになることを目指すかを考え、コピーを書くことでなく、もっと先にあるコピーの受け手をゴールとして考えることが重要だという。
「宣伝会議賞」はトレーニング 数を出すことが力になる
最後に、「宣伝会議賞」を応募する人に向けてメッセージを聞いた。「机にかじりついて『考えているふり』の状態になっていることが多いので、机など場所にこだわらず考えると良いと思います」。また「賞を獲ることが目的でなく、課題に取り組むこと自体が実力を上げるトレーニングになります。まずは、たくさん考えて数を出すこと。クリエーティブ職を目指す人は、諦めず続けることが重要だと思います」とエールを贈った。
山本友和
クリエーティブディレクター/CMプランナー/コピーライター
電通
大学院で爆薬を研究後、電通に入社。主な仕事に、ダイハツWAKE「WAKE兄弟」、午後の紅茶「あいたいって、あたためたいだ。」「オール・マイ・ティー」、資生堂「ANESSA×NAOMI OSAKA」、日本生命「父は、何があってもキミの父です。」、doda「デューダ子」、カゴメ「高性能爆薬でつくる野菜ジュース」など。TCC最高新人賞、ACCシルバー、広告電通賞最優秀賞、毎日広告賞最高賞など受賞。
現在、第57回「宣伝会議賞」特設サイトを開設しており、11月6日まで応募を受け付けています。第57回「宣伝会議賞」の応募要項、課題一覧を掲載した月刊『宣伝会議』10月号、課題のオリエンを掲載している月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)は、現在絶賛発売中です。