11月1日に「2019 59th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の贈賞式が開催された。当日は、総務大臣賞/ACCグランプリ、ACCゴールド、クラフト賞、小田桐昭賞の贈賞が行われた。
マーケティング・エフェクティブネス部門 審査委員長 小和田みどり氏は、同部門でグランプリを受賞した大紀エンゼルヘルプの「注文をまちがえる料理店」について、「”ソーシャルグッド”だから受賞したというわけではなく、SNSの炎上など、ちょっとした間違いも許さない社会において、寛容さを認めるようなクリエイティブのアイデアを評価しました。
今後、超高齢化社会に向かうなかで、認知症になってもあきらめずに働き続けられる場作りという社会のイノベーションや、その日本全体への拡がりに希望を込めて、選ばせて頂きました」と講評を述べた。
昨年新設されたブランデッド・コミュニケーション部門 審査委員長の菅野薫氏は、「審査委員は、昨年に比べて若い方や、女性の方を増やしました。また現場でクライアントの課題に向き合い、その解決のために日々立ち向かっている方々に参加していただき、生々しい意見を交わしながら、受賞作を決めていきました」と話した。
その上で、審査方法には「事前にオンライン投票を経て、ブロンズ以上と評価されたプロジェクトは審査会においてその全てを再度議論したうえで、審査委員全員で再投票するというしくみを採用」し、より丁寧な審査手順を心がけたという。その結果、2日間で約20時間に及ぶ、壮絶な審査になったとふり返った。
各カテゴリーのグランプリ受賞作品については、「Aカテゴリー(デジタル・エクスぺリエンス)は、長きにわたる議論の結果、該当作はなしとさせて頂きました。Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)の「『君の名は。』地上波放送プロジェクト」は、新聞・テレビなどのマスメディアもさることながら、ソーシャルメディア上での情報拡散も含め、メディアの枠組みを軽やかに越えて大きなムーブメントの創出に成功している鮮やかさを評価しました。
Cカテゴリー(PR)の「#この髪どうしてダメですか」については、ブランドやサービス、商品、企業が社会に対して問題提起をし、議論を呼ぶことで、自身の姿勢を社会に示したという作品でした。この作品が日本から生まれた事を誇らしく思います。Dカテゴリー(デザイン)の「NISSHIN KANSAI FACTORY」は、デザインがブランドのために何ができるか、と考えた際に、こんなにシンプルで太いやり方があるのかと改めて気づかせてくれ作品でした」とコメントした。
メディアクリエイティブ部門のグランプリに選ばれたのは、RCCテレビ60年特別企画リリーフドラマ『恋より好きじゃ、ダメですか?』。同部門審査委員長の箭内道彦氏は同作を「昔テレビが幸せな存在で、幸せを作る装置だった、そんな時代を思い出させてくれる作品です。その一方で、現代に輝くようなアイデアの新鮮さを持ち合わせていました」と評価。
クリエイティブイノベーション部門 審査委員長の暦本純一氏の講評を代読した審査委員 米澤香子氏は、「今回は作品そのものだけでなく、サステナビリティ、ジェンダーイクォーリティといった課題に対しての姿勢など、その作品が現代にある意義が多く議論に上がりました」と振り返った。
ラジオCM部門は今年から「ラジオ&オーディオ広告部門」に名称変更し、従来のラジオCMに加えて、オーディオ広告を対象とするBカテゴリーを設けた。審査委員長 嶋浩一郎氏は「コネクテッドカーやスマートホームなど、IoT化が進むにつれて、音声が企業と生活者の新しい接点になることが増えていきます。店内放送や飛行機の機内アナウンスなど、まだまだ数は少ないながらも、音の可能性を感じさせる作品が集まりました。部門全体としては、上位入賞者に若手クリエイターがかなり増えました」と説明。
Aカテゴリーのグランプリを受賞した大日本除虫菊の「ゴキブリがうごかなくなるスプレー、ゴキブリがいなくなるスプレー、コンバット」について嶋氏は「ラジオは想像力のメディアです。受賞作は、主人公が”ゴキブリかつ有名作家”というありえないシチュエーションに、リスナーを連れて行ってくれるラジオらしいCMでした。
小説家(町田康氏)をナレーターとして起用したのも異色ですし、コピーや音楽の使い方も非常に優れていました。大日本除虫菊はこれまでも数々の名作ラジオCMシリーズを生み出してきた企業ですが、今回はあえてその型を崩したチャレンジ精神も評価しました」と講評を述べた。
続いてフィルム部門クラフト賞の演技賞では富士フイルム「樹木さん2018年末特別篇」に出演した故・樹木希林氏が受賞。代理で娘の内田也哉子氏が登壇した。
「昔から、テレビの役をやっている母(樹木希林氏)に似ていると言われてきました。『嫌だなあ』と感じていた作品の筆頭株が、実はこの富士フイルムさんのCMシリーズでした。母が演じたのは、お化粧も白塗りで、歳をとっても振袖を着ている『綾小路さゆり』さん。子どもの頃はそれを理由に友達にからかわれることもよくありました。
母は、弱者に寄り添おうというおこがましいことではなく、純粋にはみ出した人が好きで仕方が無いんですね。人のはみ出した部分を、いかにチャーミングに見せるかを常に考えていたのだと思います。こうして40年近くCMが放送され続け、綾小路さゆりさんがお正月の風物詩になっていることを考えると、長い年月を費やしたことで、『嫌だなあ』と感じていたものが『なんだか愛おしいなあ』という風に見えてくることがあるのだと、幼い頃の自分に教えてあげたくなります。
早変わりする広告の世界で、ひとつのキャラクターがお茶の間の方々と共に歳を重ねてたこと自体が奇跡だと感じますし、母が亡くなって1年経ってなお、その奇跡を皆さんと共有できること、そういう面白いことが人生にはあるのだと思いました」(内田氏)
続いてUHA味覚糖の「さけるグミ」で演技賞を受賞したリリー・フランキー氏は「僕が子どもの頃、テレビCMを見て感じていた面白さやユーモア、そういったものを少しはできたのではないかな、と思っています。このCMを見た知り合いのプランナーが『商品で道行く子どもを叩くCMは初めてみた』と話していました。このような演出も許してくださったクライアントさんの寛容さあっての受賞だと思います」と述べた。
またブックオフコーポレーションの「フィクションは本だけに店員」篇「冗談よしてや店員」篇で演技賞を受賞した寺田心氏が登壇した後、アンファーの「スカルプD メディカルミノキ5」で同賞を受賞した草なぎ剛氏、香取慎吾氏が登壇した。
草なぎ氏は「香取くんとは30年近く一緒にいるのですが、意外と兄弟の役を演じたことはなかったので、とても好きな作品です。僕の方が身長が低かったりと、香取君が『兄』だと勘違いされることも多いのですが、このCMでは香取くんに『兄』と呼ばれるので、気分も良いです。新しい環境になってから頂いたお仕事でこのような賞を頂けることを嬉しく思います」とコメントした。
香取氏は「30年以上演技のお仕事をさせて頂いていますが、賞をもらったことがほとんどなく、この演技賞のために僕はここまでやってきたのかな、と思いました。演技で賞を頂けたのがアンファーさんの『ミノキ兄弟』ということ、一生僕の中に残るでしょう」と笑いを誘い、「すごく嬉しいよ、兄さん」(香取氏)と、「ミノキ兄弟」風のアドリブも披露した。
フィルム部門 審査委員長 多田琢氏は「こうして受賞作品を振り返ると、審査委員長などという偉そうな立場からでなく、いち制作者として嫉妬を覚えてしまいます。今年はAカテゴリーのグランプリを2本選出しました。決め手は、実際のオンエアの15秒で視聴者に衝撃を与えた、ということです。表現は少し過激かもしれませんが、制作者が信じたものをクライアントの方々にも信じて頂き、最後まで貫き通したのでしょう。15秒のCMで、キャンペーンやマーケティング、ストラテジーを突破する可能性を感じました。意表を突かれる心地良さを2つの作品に共通して感じました」と講評を述べた。
続いてBカテゴリーのグランプリに輝いたタクティー「jms」の「連続10秒ドラマ『愛の停止線』」について、「あるデータによると、インターネットのWebCMは、視聴者の興味が無いと6秒で飛ばされるそうです。このWebCMは、それを逆手にとった10秒動画の連打というアイデア。『この手があったか』と思わされました。この動画をみて10秒でやめられる人の方が少ないのではないでしょうか」と評価した。
全ての賞の発表後、総務大臣賞(各部門のグランプリ)の受賞が行われ、総務省 寺田稔 総務副大臣から賞状が手渡された。
「今回グランプリに選ばれた作品は、強い印象を持つもの、笑いを誘うものなど、クリエイターの方々の豊かなアイデアと創造性の溢れるものでした。社会に向けて問題提起をする企画、新たな着眼点でイノベーションの可能性を示す取り組みなど、意欲と創造性溢れる作品が多数登場しています。この賞が、クリエイターや関係者の方々のより一層のはずみ、励みとなり、放送を始めとする様々な我が国のコンテンツ制作の一層の発展に繋がれば嬉しく思います」と、高市早苗総務大臣からの祝辞を伝えた。
最後に、総務大臣賞受賞企業を代表して、タクティー 代表取締役社長 新井範彦氏が受賞のコメントを述べた。
「タクティーは、カーメンテナンスの専門店「ジェームス」等を展開する企業です。残念ながら認知度は低く、CM等も検討したうえで、3年前からWeb動画に舵を切りました。その積み重ねの結果が、今回の受賞に繋がったと考えています。
実はこのWeb動画は、当初は約2分間で徹底的に商品を説明する内容でした。しかしある時に、10秒動画なら2分間に12個商品を紹介できるという提案を受け、このような形式となりました。消費者の方々に不快感を感じさせてしまう一歩手前で止める、という点が非常に難しく、議論を重ねました。全国に展開しきれていない当社のような企業でも、この分野であれば、知恵と工夫次第で国内有数の企業とも戦えるのではないかと思います。
最後になりますが、クライアントと広告代理店、そして実際に制作をしてくださるプロダクションがひとつになって、得られた成果だと考えています。今後もお互いをリスペクトし合いながら良いコンテンツや売り上げ作りに頑張って行きたいです」(新井氏)
11月下旬から2020年3月にかけて、ACCでは本賞入賞作品の中から選りすぐりの作品を上映・公開する「入賞作品発表会」を全国30ヶ所で開催予定。