新政酒造を継ぐつもりは全くなかった(ゲスト:佐藤祐輔)【前編】

新政酒造に普通のお酒はあまりない

佐藤:まだ発売してないので出しやすい後ろのほうから持ってきています。もうひとつは「ナンバーシックス」というお酒です。6号酵母、協会酵母という日本酒をつくるための酵母があって。

権八:それは佐藤さんのひいおじいさまがね。

佐藤:曾祖父が発見したんですよ。今は1~5号までが全部なくなっているので、実質、一番古い酵母で、90年前の酵母なんです。僕が蔵に帰ったときはどこの蔵でも使ってなかったようなレトロな酵母だったんですけど。うちでは全部それで酒造りしようと、やり直したんです。そうしたら案外よくてね。6号酵母の生酒のことを「ナンバーシックス」と言います。別のお酒も全部、6号酵母なんですけど、この中でも一番高いもの…と言っても3000円ぐらいですけど。

澤本:この世の幸せだな、これ。

佐藤:そのXタイプ。僕は仕込み1本1本に名前をつけているんですよ。「ナンバーシックス」のXタイプだったら年間で7本仕込みをするわけですが、1本1本違う出来だから、お客さんがまた飲みたいと思ったときに分かりやすいように、個別に仕込み1本1本にサブタイトルがついていて。

澤本:それはタンクの名前ですか?

佐藤:そう、仕込みのね。これは仕込み2本目のナンバーシックスのXの中どり、タンク1本1本にファッションデザイナーから名前を取っていて、これはと「ドゥムルメステール」と書いてあります。僕はそのデザイナーが好きで。Rタイプだったら文学作品、Sタイプだったらロックミュージシャンから取っていたりします。仕込みの識別番号を全部、僕の趣味で命名していて、しかも全てのお酒にサブタイトルがついています。

権八:面白いですね。

佐藤:最後のものは「農民芸術概論」という名前です。

澤本:授業ですね(笑)。

佐藤:宮沢賢治の詩集に『農民芸術概論綱要』というのがあるんです。ちゃんと発表した作品じゃなくて、ノートの走り書きみたいなものですが、僕が気に入っている未完成の詩集、宣言文のようなものです。これは自分の会社でお米を栽培しています。

澤本:お米からつくられてるんですね。

佐藤:そう、無農薬栽培なんです。肥料もやらない、農薬も使わない。うちの役員が1人で頑張ってやってます。このお酒は無農薬栽培米でつくったもので、うちで初めに成功したものです。まだ酒づくりの無農薬栽培に適したやり方は分かっていなくて、飲みどきもずっと先なんですけど、メモリアルな酒なので一応持ってきました。

澤本:どれからいこう。僕さっきから飲みたいだけなんだけど、どれがいいでしょう?

佐藤:どれも味がぶっ飛んでるものを持ってきていて、普通のお酒はあまりないんですけど……。「ナンバーシックス」にしましょうか!

澤本:はい、分かりました!

権八:味がぶっ飛んでるってどういうことなんだろう。

佐藤:うちは普通のバランスの酒はつくらないんですよ。つくり方も昔のつくり方を踏襲していて、オーソドックスな味にいくより、素材の良さ、伝統的な良さ、酸っぱくなったり、そういうものを結構打ち出しています。アルコールも低めだったりするので、一般的に飲まれているお酒とバランスがちょっと違うかな。だから、みんな気に入ってくれるわけじゃないけど、気に入ってくれる人は喜んでくれるという。

澤本:この香りはすごい。頂戴します。(ゴクッ)おいしい!!

佐藤:さらさら飲めるでしょう。やや酸味があって。一般的に日本酒は酸が強いのは嫌われる傾向にあるんですけど、それはつくり手が嫌っているだけで、今は30~40年前のように和食しかないわけではなく、食が多様化しているから、このぐらいすっきりとした酸がパンとあって、ほのかに米の甘味を感じるみたいなものが僕は一番好きですね。

権八:インタビュー記事を読んだところ、最初に佐藤さんが衝撃を受けたのが「磯自慢」でしたよね?

次ページ 「酒蔵を継ぐ気は全くなかった」へ続く

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