従来の棚取り施策は「単発の繰り返し」だった
従来のメーカーの小売業に対する施策は、
① 新商品のマス媒体を活用した宣伝活動
② 店頭における販促キャンペーン
③ リベート制度(割戻金)
など大きく3つに分類される。メーカーはこれらの施策を繰り返し行ってきたが、いまでは買い物客の行動に必ずしも有効な施策とは言えなくなっている。では、このような施策を繰り返し行っても効果が出ないとわかったいま、これからメーカーはどのような新しい施策を提案していくべきか。
ここでは、「協働」をキーワードに、従来施策の課題点と新たな施策を実践する上でのポイントについて整理していく。
第一に、メーカーは自身と小売業の「売上」の違いを理解すること
小売業側に求められる施策を考えるには、まずそもそものメーカー・小売業それぞれが求める「売上」構造が異なることを理解しておかなければならない。
メーカーの売上指標のひとつは「取扱い店舗数」また「店舗あたりの自社製品の売上高」である。そのため、メーカーは自社製品に有利な売り場を獲得することで売上を高めようと、「新発売」または「新商品」による棚の確保を繰り返し行う。これが結果的に、単発的な施策を生む要因となっている。
一方で、小売業の売上の指標は「客数×客単価×リピート」である。そもそも客数の増加が難しい現状において、小売業側が最も求めるのは客単価またはリピート率といった「行動量」の上昇である。
この違いからわかる通り、小売業は、単発施策の提案でつながる短期的な関係ではなく、長期的な取り組み、すなわちメーカーと小売業の「協働」を前提とした、一人あたりの「行動量」を高めるためのアイデアを求めているのだ。
協働プロモーションを実践していくための3要素
メーカーが新しく行う提案には、「協働」が必要と分かった。では、協働でプロモーションを実践していくにはどうすれば良いか。その入り口となるポイントは3つある。
①買い物客(ショッパー)のインサイトと小売業の「本音」への意識
買い物客のインサイト(ショッパーインサイト)をとらえる展開が近年意識されているが、商品を販売する小売業にも「本音」が存在する。例えば、売り場にある通説やルール、カテゴリー(部門)の壁や棚割り・スタッフの労力など、こういった「本音」を理解しないと、施策の十分な効果を発揮できない。小売業の「本音」を理解したうえで、ショッパーの行動量を高める施策を打つことが、協働プロモーションを推進するための大前提となる。
②併売値やリフト値から、小売業とメーカーそれぞれの商品が共に売上を高める仕組みをつくる
例えば、商品Aを買うときに、商品Bも併せて買うケースが多いとする。AがBの売上も持ち上げている構図から、メーカーは小売業に対して併売提案を強化することができるが、さらにこの商品Bが生鮮3カテゴリー(青果・精肉・鮮魚)や小売業のPB商品と言った粗利の高い商品であれば、より一層メーカーの貢献度は高いものになる。それを狙って商品企画やレシピをつくるのも一つの施策である。
③情緒感のある新しいテーマをつくる
イトーヨーカドーの売り場では「二十四節気」を取り上げて立春や春分と言った馴染みのあるものから、啓蟄や寒露なども取り上げることで、日本人の気質をマーチャンダイジングにつなげている。これを歳時に限らず、さらに普段の暮らしの中から「情緒的な場面・シーン」を切り取り、自社の商品と合わせて訴求することで、新しい販売のチャンスや購買行動の習慣化をつくることができる。
上記は対策の一例ではあるが、このほかにもデジタルの活用などメーカーが講じるべき方法論は多岐に亘る。購買行動の現場である小売業の「本音」を理解して「協働」を行う上では、まずはこれら施策において、メーカーとしてどのようなことが行えるかを真剣に考える必要を感じる。
倉林 武也
リテイルインサイト 代表取締役
食品・飲料・化粧品などのメーカー企業の中でファシリテーターとして課題の本質を整理し、商流を活性化したり、小売業の中でこれからの時代に向けた店やサービス、人づくりなどを本部・店舗を繋げながら実践。また、インサイトを起点にした行動デザインの活用や、実務的なデジタルの活用など人や組織を動かす仕組みを追求。2010年から18年の国内外のプロモーション活動、O2O、オムニチャネルについてを分析。学習院マネジメント・スクール研究員。
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