日本酒はつくり手のセンスが出てしまう
佐藤:6号酵母や地元の秋田県の米にこだわろうと。そう考えたら、当時の地酒の世界では評判はないか、マイナスに等しいけど、「新政」の名前でやろうと思いました。だからセカンドブランドを立てるのをやめて、「新政」で復活してやろうと決めたんです。
権八:かっこいいじゃないですか。
澤本:そのあたりが経営の才能もあるんだよね。
佐藤:いやー、でも自殺行為ですよ。僕が我を通しただけで。
澤本:あと運がいいんだね。
佐藤:運がいいんです。完全に運です。だから次の年から6号酵母にこだわった酒づくりをはじめました。全部じゃないけど秋田産米も増えて、「新政」という名前で戦おうと。ただ、普通の6号酵母で普通のつくり方をしても、「山田錦」や先端の酵母には敵わないんですよ。
そこから全く別のジャンルのものを自分で開拓すれば、他の蔵と競争しなくてもいいなと思ったんです。それでこの「異端教祖株式会社」や「亜麻猫」のような酸っぱい酒、「陽乃鳥」という貴釀酒の甘口のお酒をつくりました。貴釀酒も源流をさかのぼると900年代の延喜式という、古い日本酒のレシピに載っているんです。
そうやって伝統に基づいたうえでエクストリームな味を提案していったんですね。そうしたらはせがわ酒店などの酒販店さんが面白いねと言ってくれて、ぽつぽつ売れて、赤字の安い酒をつくる必要がなくなるというサイクルで経営が改善していったんです。その途中で「ナンバーシックス」も出しました。
拡大生産をやりながら合理化していくと、だんだんダメになっていくんです。だから毎回、根こそぎ人の評価なんて関係なく変えるべきなんです。
澤本:なるほど。
佐藤:音楽でいうと僕はマイルス・デイヴィスやキング・クリムゾンを模して自分の蔵をやっていきたいと思っていて。やってることがまるっきり違うから、他の蔵と比べられるわけがないんです。比べられる要素があるから良い悪いを言われるわけで、まるっきり違えばいいんですよ。あ、最後のお酒も開けたほうがいいですよね。
澤本:いやいや、ちょっと僕潰れますよ(笑)。
佐藤:「農民芸術概論」、僕これ好きなんですよ。飲み時は数年ぐらい先で、今飲んでも荒っぽいけどまぁまぁいけますから。無農薬のお米って窒素や酒を劣化させる成分が凄く少ないので。
澤本:この米を自分のところでつくってるんですよね。凄いですよね。
佐藤:うちの役員がやってます。大変ですよね。地酒特有の切ないロマンティシズムを求めるか求めないかという話があって。それが重い場合もあるじゃないですか。だって、ビールにそんなものを求めないでしょ。どこかの製造工場の責任者の苦痛みたいなものをビールに求めないじゃないですか。
でも、日本酒はそういうのが含まれていて、特に地酒は人のセンスなどが出ちゃうんです。バランスのとり方は雑だけどアーティスティックな人はそういう風に落とすし、めちゃくちゃ几帳面な人は雑味を許さなかったり。本当につくり手が出ちゃうんです。
特にうちの酒はそれが出ていて。僕が好き勝手やってるようなものなんですけどね。それこそ好きな音楽はパーソナリティを表してるから、たとえば蔵元がDJをやりながらそこのお酒を飲んだら、より相乗効果で分かると思うんです。
澤本:いいですね、それ。
佐藤:僕の場合はプログレやぐちゃぐちゃなサイケトランスみたいなものをDJしながら僕の酒を飲むと、僕のやりたいことが言葉ではなくフィーリングで分かってくれると思っています。日本酒を飲むときに音楽が一緒にあったら面白いですよ。
権八:佐藤さん以外にもそういうことを試行している蔵元の方はいるんですか?