消費者の多様化に伴い社内でデジタル化推進プロジェクトが始動
—キッコーマンでは今年7月に経営企画室内にデジタルマーケティング担当部門を設立されたそうですね。デジタルマーケティングの取り組みを推進されることになった背景から伺えますか。
清水:キッコーマンには「『消費者本位』を基本理念とする」という経営理念があり、以前から消費者起点のマーケティングを心がけてきました。
昨今、お客さまとのデジタル上の接点が格段に増え、嗜好性が多様化したお客さまに対して、個々に適切なメッセージを届けることが求められるようになっています。
デジタル時代に、「消費者本位」を体現するためには、データ活用の基盤整備やマーケティングのデジタル化の対応が不十分という課題があり、昨年4月に、デジタル化推進のプロジェクトを始動。課題整理や情報収集を行いました。
さらに今年7月から、経営直轄でよりスピーディーな意思決定ができるよう、経営企画室内にデジタルマーケティング部門が配置されています。
—DataCurrentはキッコーマンのように、データを駆使したマーケティングを推進しようとする企業をサポートする目的で設立されたそうですね。
大島:サイバー・コミュニケーションズの子会社である当社は2019年6月に設立しました。もともと、サイバー・コミュニケーションズ内のひとつの事業として、企業のデータ活用基盤の企画設計・開発から運用支援までワンストップでサポートしていましたが、多くの企業からのニーズの高まりを背景に、事業の一部を切り出し、新会社としてスタートしています。
主には、データを起点とした戦略立案・実行支援サービスを提供しており、データ基盤の構築から、機械学習などを活用した最先端の分析、プロモーション施策の立案と実施、効果検証によるPDCAまで、企業さまが抱える課題に応じてワンストップでサポートします。
—2社での取り組みは、2018年11月からスタートしたそうですが、当時キッコーマンが抱えていた悩みや課題について具体的に教えてください。
清水:プロジェクト初期の段階で、我々が抽出した課題は主に①マーケティングのデジタル化、②SNSを活用した消費者との双方向コミュニケーションの強化、③流通のデジタル化への対応、④データ基盤の構築、の4つでした。
例えば、①のマーケティングのデジタル化については、デジタルシフトしていく消費者に合わせて、当社のマーケティングも変わっていかなくてはいけないという問題意識がありました。そのためには、デジタル広告の最適な運用に限らず、キャンペーンのデジタル化など、さまざまな消費者接点においてデジタルを活用し、これまでにない要素をマーケティングに取り入れたいという希望がありました。
④のデータ基盤構築に関しては、社内外のデータを活用して消費者理解を深め、そのニーズに合った、より良いサービス・商品を届けたいという想いがあり、その目的達成のために、いかにデータを蓄積・一元管理し、そして活用するか、その基盤の設計をいかにして実現すべきかを考えていました。
統合IDによる顧客化を通じ、ロイヤルティの高いお客さまを発見し、「リッチな」コミュニケーションを目指す
—具体的に2社はどのような取り組みをしたのですか?
清水:まず、我々が持っている消費者とのタッチポイントにおけるデータの棚卸しから始めました。当社では、しょうゆ・豆乳をはじめとする数々の商品のほか、レシピサイト、工場見学、ワイナリー見学、ECサイトなど、お客さまとの接点がたくさんあります。それらの接点の中でデータが取得できているものは何か、またデータが取得できている場合には、どのように管理しているのかを一緒に一覧表にして整理していきました。
大島:棚卸しをした後、それぞれの消費者接点でいかにオンライン化し、どのようにデータを蓄積していくか、またどこから顧客化を進めていくかを選定いたしました。例えばこちらはキッコーマングループでワインを製造している「マンズワイン」の顧客体験のイメージ図です(下記の図を参照)。まず、マンズワインが提供するワイナリー見学では、入場の際に会員登録をする基盤を構築しました。
そして、その場でワインを購入いただくと、購入した証跡が残ります。その後、メルマガを通じて御礼メッセージとともに、Web上のマンズワインECサイトの情報をお届けする。ワイナリー訪問後の熱量の高いタイミングで情報をお届けすることで、一定数のお客さまにとっては新たな発見につながり、ECサイトの閲覧、新たな商品購入につなげられます。顧客化し、さまざまな情報を届けることで、キッコーマンの新たな魅力の提供を実現できるのです。
清水:ワイナリーには年間約20万人が訪れますが、以前は来場者数しか把握できていませんでした。しかし来場の際に会員になってもらうことができれば、お客さまがどのような人か把握でき、来場後もオンライン上でお客さまとコミュニケーションをとることができます。そしてEC上でも商品を買っていただいたり、当社グループが提供するさまざまなサービス・体験をご案内したりするなど、継続的な関係性をつくれる。そういう仕組みをDataCurrentさんとは協力してつくってきました。
大島: 統合IDによる顧客化で重要なポイントは、ロイヤルティの高いお客さまを見つけることです。たとえマンズワインがキッコーマンさんの商品だと知らないお客さまでも、Webサイトを回遊しているうちにキッコーマンさんのサイトで美味しそうなレシピを見たり、新商品情報を見つけたり、どんどんロイヤルティが高くなっていく効果があります。
—DataCurrentがサービスを提供する上で意識されていることがあれば教えてください。
大島:まず、当社がお客さまの課題解決で大切にしていることは「寄り添う」姿勢です。常に、お客さまにどのような課題があり、解決への道筋として何をすればいいか、整理していく作業を大事にしています。
清水:そうですね。我々も、いきなり「ツールを導入しましょう」という提案ではなく、課題に対して「一緒に考える」姿勢で臨んでもらえたことで、安心感が持てました。
また、当社がデジタル化を進める上で事前に考えていた案を大島さんに相談したところ、「そんな高いコストを支払わずとも、小さく始められることがある」と率直に意見してくれました。しっかりと「ブレーキを踏んでくれる」会社である点を信頼しています。
—統合IDによる顧客化を通じて、今後期待されることがあれば教えてください。
清水:今後も引き続き統合IDによる顧客化を進め、ワイナリーや工場を見学されたお客さまを単にオンラインサイトに誘引するだけでなく、例えばワイナリーにいらした方に、当社運営のレストランをご紹介することもできるようになります。デジタルに閉じない、そのような“リッチ”なコミュニケーションが、実現できるようになると期待しています。
大島:現在はキャンペーンに応募した方や、料理教室の参加者や工場見学に行く方など、あらゆる既存のタッチポイントで顧客化できる仕組みづくりに着手し始めています。今後もクライアントが持っているデータ環境を生かしつつ、課題に寄り添った支援をしていきたいと思っています。
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