欧州からトレンドを探る! 「Web Summit2019」レポート(森 直樹)

デジタル時代におけるブランドの再構築とは?

「WebSummit」では、欧米の巨大企業のC×Oクラスによる対談を間近で聴講することができる貴重な機会。筆者もいくつかのセッションに参加をした。ここでは先程、触れたIKEAのCEOであるBarbara Martin Coppola氏と、JP モルガン チェースのCMOであるKristin Lemkau氏の対談に触れたいと思う。

両氏の対談では、デジタル世界のスピードについて、AIや機械学習が最大のディスラプターになりうるとの見解が示された。また雑誌「フォーブス」で特集された「CMOは絶滅しつつあるのか? その寿命が43カ月と短くなっており、大手ブランドがCMOを退任させている」という記事に触れ、ダーウィンの「生き残るのは最も早い種ではなく、変化に最も適応できる種だ」になぞらえていたことが興味深い。

さらに、JPモルガンのKristin氏は、デジタルの才能を引きつけ維持し続けるためには、必ずしも専門知識は必要ないが、適応できる人材が必要だと指摘。それは、今日ではデータサイエンティスト、明日はロボット工学エンジニア、そして消費者の行動の変化に応じて理解し、適応して消費者の変化に応じて、スキルセットを適応させられる人材が必要だという。

さらに両氏の議論は気候変動やジェンダー問題にも及んだ。Barbara氏は、IKEAが地球温暖化防止に積極的に取り組むことを宣言していることに言及、2030年までにIKEAで販売される全ての製品がリサイクルもしくは再生素材をしようしたものになることについて語っていた。Kristin氏も、自分たちは2030年までにカーボンニュートラルになることを目指しており、都市や金融の不平等への対応について立場を明らかにしたいと話していた。

マーティン・ソレル卿とバーガーキングCMOの対談に遭遇

筆者が最も関心を持っていた対談は、元・WPPのCEOであるマーティン・ソレル卿とバーガーキングCMOのフェルナンド・マカド氏の対談だ。現在、マーティン卿は伝統的メディアにとらわれないデジタルサービスに注力するS4キャピタルを創業している。

対談の中でソレル卿は、「我々は、S4を純粋にデジタル化だと考えている。伝統的なものにはまったく関心がない。それは、基本的に衰退しているからだ」と、デジタルへの注力について自身の現状を語った。さらに、「私たちS4がやろうとしていることは、プラットフォームやソフトウェアに焦点を当てて、より良い変化を発見すること」と続け、GAFAを始めデジタルプラットフォームやソフトウェアに注力していること強調していた。

またバーガーキングCMOのフェルナンド氏は「自身とチームが業界をとりまくスピードに追いついているのか?」との質問に対して、「現実は何が起きているか?」「AIは何をするのか?」チームに対して常に問いかけ続けていると答えた。フェルナンド氏とそのチームは、そうした知見を顧客のため、サービスの向上のため、コミュニケーションを深めるために、より大きなアイデア探求に利用しているのだという。

また、自分たちが最も成功しているのは全ての取り組みにおいて、“最初の神様”になることだという。そうなるために、行動に徹底的にこだわることが重要であると、バーガーキングのマーケティング活動の成功要因について語っていた。

最後にソレル卿は、過去においても未来においても、成功に必要な要素とはなにか?との問いに対して、「持続性とスピードであり、効果的かつ効率的に働くためには最善の人材が必要」と締めくくった。

写真左がBurger King CMO,Fernando Machado氏、右から2番目がS4 Capital Executive Chairman, Sir Martin Sorrell。

昨年に続いて、2回目となり「Web summit」は、広告人として、マーケターとしての自身にとって、非常にエキサイティングなイベントとなった。欧州というシリコンバレーカルチャーとも、中国のエコシステムとも違う価値観にどっぷり浸かることができたからだ。

「Web Summit」はこれからも欧州の企業人がテクノロジーの進展とプライバシー、さらには持続的成長といった大きな問題に対して、どのような感覚・感性を持つべきなのか。さらには企業活動としては、どのような舵取りを思考すべきか、など大きなテーマを追求することだろう。

来年は、さらに欧州域外からの参加者、日本人の参加者や出展社も増えることだろう。引き続き注目したいイベントであることは間違いない。

レポート

森直樹
電通 CDC エクスペリエンスデザイン部長 クリエーティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。 日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の幹事(モバイル委員長)。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST (INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia (PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo 公式スピーカー他、講演多数。

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