結婚のよさ教えてくれたふたり
「私のおばあちゃんとおじいちゃん」を制作したのは、岡山県岡山市の映像制作会社 びよりのチームだ。メンバーは安井祥二さん、本田拓也さん、安井久雄さん、岡本恭尚さんの4人。作品は、リクルートマーケティングパートナーズの『ゼクシィ』の課題「結婚したいと思う人が増える動画」に対して応募された。
まずは今一度作品を見直してみたい。
認知症を患った入院中のおじいちゃんと、そのおじいちゃんと人生を共にしてきたおばあちゃんの、病室内での会話を切り取った内容。おじいちゃんは、おばあちゃんから「もう結婚60年になんねんよ」と聞き、そこで始めて知ったかのように「60年!うわあ、すごいなあ…」と目を輝かせる。
作品には、「お互いを思いやり大切にする夫婦の愛はいくつになっても変わることはない。夫婦で年をとることの美しさ、尊さを見せることで、『結婚っていいな』『夫婦っていいな』と、結婚に対する『憧れ』を抱くことをゴールにしました」と説明を添えた。
「おじいちゃん」と「おばあちゃん」の二人の会話を映しただけの、シンプルなドキュメンタリー作品はどのようにして生まれたのだろうか。
「この動画を制作したのは、2017年末から2018年の始めにかけてでした。2015年からBOVAへの応募を始めましたが、ふだんの仕事があるので、企画をするのはいつも大体この時期。お正月休みを利用してアイデアを練り込み、休み明けに一気につくりこむんです」と話すのは安井さんだ。
びよりは2013年に「BOVA2014」に初めて応募した際に広告主部門のファイナリストに選出。16年のBOVA2017でも資生堂の協賛企業賞を受賞と好成績を残しており、それに続いて17年の「BOVA2018」にも応募する運びになったのだった。
正月休みに集まる前にメンバーが各自でBOVAの課題を見て目星をつけておき、それぞれアイデアを持ち寄る。そこに安井さんが持ち込んだのが、「私のおじいちゃんとおばあちゃん」だった。
その時のことを、本田さんはこう話す。
「僕も他のメンバーもアイデアを用意してきたのですが、安井さんのアイデアを聞いた瞬間、すぐに『これでいこう』と決めました。予想はつかないけどこれはなにかすごいものができるぞ、と思ったのを覚えています」
「僕の両親は、あまり仲が良くありません。そんな僕に“結婚”はよいものかもしれない、と気づかせてくれたのは、おじいちゃんとおばあちゃんだったんです。歳をとっても仲睦まじく一緒にいる二人を見て、僕が抱いた憧れの気持ちを、そのまま動画にしたいと思いました」(安井さん)
本田さんは「お二人の関係性や状況を聞き、すごく素敵だなと思ったからこそ、ドラマのようにつくり込む必要はない、むしろドキュメンタリーの手法として描くべきだと考えました」と話す。「安井さんのおばあちゃんと、認知症になってもおばあちゃんのことを思い出すおじいちゃんの二人の会話を映す、できるだけシンプルな構成にしました」
毛布に隠れて撮影、その後
アイデアが固まった一方で、撮影ではどんなものが撮れるのか、予想がつかなかった。
「その時のおじいちゃんは既に、おばあちゃんの名前も言えない、ほとんど会話もできない状態。撮影がどのように進むのか、正直分からない部分がありました」(安井さん)
しかし当日はおばあちゃんの声におじいちゃんが反応し、会話がきちんと交わされた。心配していた撮影も数時間で終了したという。
より自然な状態での撮影ができるようおばあちゃんに協力してもらい、おじいちゃんのいないうちに撮影機材を用意。毛布をかぶって「人ではない何か」の状態で行った。
「その後二人に順に病室に入ってもらいました。最初はおじいちゃんも違和感を感じたかもしれませんが、徐々にぼーっとした状態になり、撮影は無事終わりました。一方で、動画の短い尺の中でどのエピソードを使うか、すごく悩みました。限られた中でいかに二人の仲のよさを見せるかは、チーム内で最も盛んに議論がされたところ。最終的にできたのが、応募した作品でした」(安井さん)
結果、BOVA2018ではリクルートマーケティングパートナーズの協賛企業賞を受賞。
『ゼクシィ』編集長の平山彩子さんからは、次のようなお祝いの言葉が捧げられた。
“結婚ってどういうことなんだろう。結婚って本当に幸せなことなのだろうか。まだ結婚をしていない人も、すでに、結婚という時間を積み重ねはじめたふたりも、そんな疑問や不安を抱くことがあるかもしれません。でもこの動画を見れば、自然と答えはふたりの時間にしかないのだと気づかされるのではないでしょうか。とってもまっすぐに、そして、温かく愛し合っているふたりの姿から、直接は表現されていませんが、積み重ねた時間の中に潜むたくさんの物語を感じさせていただきました。
結婚の形も、ふたりの物語も、夫婦の数だけ存在するのだということを感じ、ご覧になられた方々にとっても、ふたりで生きる未来に勇気が湧く、そんな作品になるのではないかという期待を込めて選出させていただきました。“
当時を振り返り、安井さんは「撮影後ほどなくしておじいちゃんは亡くなりましたが、おばあちゃんに受賞を報告すると、すごく喜んでくれましたね」と嬉しそうに話す。
さいごに、BOVAに応募し続ける理由をたずねた。
「通常の仕事ではクライアントの意向が最優先されるところを、企画から制作まで全て自分できるので、リスクなく思い切ったことができるからでしょうか。“自分が信じたものを信じて作れる場”ということに価値があると思います」(安井さん)
「BOVAの受賞パーティ後の懇親会で知り合ったことをきっかけに、仕事をさせていただいたカメラマンもいます。今回受賞したACC賞もしかりですが、僕たちがつくった作品が、トップクリエイターと言われる方々に、ほんとうに見て評価してもらえているんだと改めて実感しました」(本田さん)
びよりは今年もBOVAに応募する考えだ。
BOVA2020
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