広告の歴史におけるサイエンスとアート
広告がどのように機能するかという考え方は、この70年にわたり、ほぼ変わっていません。それは以前にこのコラムで指摘したように、AIDAのようなセールスに基づいた合理的説得プロセスのモデルが主流であり続けてきたからです。
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AIDAとは1887年にセント・エルモ・ルイス氏が、セールスパーソンによって、人が購買に至る一連のステップとして発表した(Attention注意、Interest興味、Desire欲求、Action行動)というプロセスのことです。
なぜ、このような考え方が約70年にわたり、変わらずに使われ続けてきたのか。その背景には広告会社と広告主の伝統的な商慣習があります。
合理的な説得に基づいたメッセージで広告主と合意する一方で、広告会社はマーケティングの歯車をまわすための「広告」を機能させるために、クリエイティブやブランドという視点を入れて、合理性を超えたところで進化してきました。それは言うなれば、広告ビジネスにおける「サイエンス(科学)とアート(芸術)」の補完であり、融合であると思います。
その後、21世紀になって、テクノロジーやメディアが進化しつつあるなかでも、この構造は変わらないまま、さらに社会科学や人文科学の研究が進むにつれ、この補完関係については、さまざまな形で知見が語られてきました。
たとえば、1950年代の米・広告界におけるアーネスト・ディヒター氏による「心理学」の導入がそうです。サブリミナル広告のスキャンダルが正しい理解を阻むことにはなりましたが、彼が広告の「アート」の部分における理解に光を当ててきたことは事実でしょう。
その後、人文科学や社会科学だけでなく、視線や表情、脳波のような生体の客観的なデータに基づいた脳神経の科学からのアプローチも増え、「サイエンス」に関する理解がさらに進んできていると実感しています。今日はそんななかで最近、自分が興味を持った知識から、「広告とマーケティングのサイエンスとアート」についての考えを紹介してみたいと思います。