2019年に周年を迎えた企業の数は、14万1550※。30周年が最も多い約2万9600社で、100周年は約1700社にのぼる。商品やサービスなどの周年を加えると、さらに多くの企業が周年を迎えていることになる。
周年プロジェクトを手がけるテー・オー・ダブリュー(TOW)の小柴誠氏(体験デザイン本部 プランナー)は、「周年は、大企業や老舗企業だけのものでも、数年・数十年に一度の出来事でもなく、もっと身近なもの。自分たちには関係ないとは思わないで」と呼びかける。
企業が周年事業を実施する際、その主な目的は「理念と意義の浸透」「リブランディング」「社内活性化」の3つになる(図1)。これまではインターナルブランディングの文脈で語られることの多かった周年事業だが、近年ではアウター向けのコミュニケーションと組み合わせた「周年プロジェクト」に変容しつつあるのだ(図2)。「周年というきっかけを、ブランドを好きになるきっかけにしてほしい」と小柴氏。
パナソニックを象徴する企画に
創業時(1976年)から手がけるイベントの企画制作に強みを持ち、SP・デジタル・映像・PRなど多様な業務を行っているTOW。近年は、人の意識や行動の変化をデザインし、商品やブランドの課題解決につなげる“体験デザイン”に力を入れている。
「人は、読んだことの1割しか覚えていないが、体験したことの9割は忘れない」という、キッザニア創業者のハビエル・ロペス氏の言葉を引用しながら、“体験”の重要性を語った。「周年プロジェクトは、人の心と身体を動かすブランド体験の機会点となるように設計するべき」と小柴氏。TOWが手がけたパナソニックの100周年イベントや、カルビーの70周年プロモーションの事例から、その設計のポイントを語った。
2018年10月31日~11月3日にかけて東京国際フォーラムで行ったパナソニックの周年イベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」では、グローバルリーダーなどによるシンポジウムや同社の100年の歩みと未来に関する「NEXT100」の展示・演出などを担当した。
パナソニックはいまや家電だけの企業ではない。自動車関連、住宅関連、BtoBソリューション事業など、“ものづくり企業”から“イノベーション企業”へと転換している。そこで、同社では100周年を機に「パナソニックは何者なのか」と問い直し、「くらしアップデート業」と定義した。人が過ごしている「あらゆる時間」を日々アップデートしていくという意味だ。
そのため、周年イベントの目的は、ただ単に自社の歴史や技術を紹介するだけではなく、テクノロジーやアイデアを持っている人とつながり、オープンイノベーションを実践することとした。これを実現するために、同社の新規事業創出活動とパートナーのマッチングを実現する「NEXT100」を企画。「これからのパナソニックを象徴する企画に携わらせていただきました」と小柴氏。
この事例のように、周年イベントを実施する意義は、次の4つにまとめられる。
(1)ブランドらしさを五感で体感でき、心に刷り込むことができる
(2)イベント自体がコンテンツになり、社内外発信の強力な一枚画になる
(3)社員の自発的な参画が得られ、ブランディングの牽引力が生まれる
(4)周年プロジェクトの方法論が確立され、社の資産として遺される。
70個の“ワクワク”を実現
カルビーでは、2019年4月から1年間、周年プロモーション「Calbeeもっとワクワク70プロジェクト」を実施している。新規ファン獲得(離脱層の再活性化)と既存ファンのロイヤリティ強化を目的に、創立70周年にかけて70個の“ワクワク”を実現していくという企画だ。
例えば、ポテトチップスなどの定番商品と意外性のある企業・コンテンツのコラボレーションや、SNSを介して参加を促した「かっぱえびせん選手権&サッポロポテト選手権」などだ。「これらは、社内からブランド愛や経験値に基づくアイデアを出していただき、当社のプランナーやPRプロデューサーなどが、生活者目線で話題になるような企画に昇華したものです」と小柴氏。
中には、自社製品だけでなく“おやつ市場”全体を育てる仕掛けもある。ニュース配信アプリ「グノシー」に「おやつ」というタブをつくったのだ。このタブには、カルビー製品とは関係のないニュースも含め、おやつを楽しむための情報が年間を通じて発信される。そのタブの下に「Supported by カルビー 創立70周年」と入れることで自社の情報発信やブランディングにもつながっている。
小柴氏はこの事例を踏まえ、周年プロモーションの意義として、
(1)周年として構えることで、商品単位の施策を束ねて強く・大きくできる
(2)周年を機にブランドの資産を棚卸しし、活動に厚みを持たせられる
(3)既存のファンと新規顧客の双方にアプローチできる
(4)商品単体施策とは異なる営業話材が生まれ、商談活性化や拡販につながる
の4つを挙げた。
最後に「周年を契機に企業や商品のブランド価値を見定め、体験を通じて人を動かす、体験価値の時代にふさわしい周年プロジェクトを一緒に創っていきましょう」と締めくくった。
テー・オー・ダブリュー
体験デザイン本部 プランナー
小柴 誠氏
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