広報は必要とされる。なのに、期待はされない「矛盾」
小西:ご縁があってこの本『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』を書くことになったのですけれども、「PRの本ですよ」と表紙に全く書いていないのは、企業の経営に携わる方々に特に読んでほしいという気持ちがあるからなんです。「アマゾン ジャパンだってもともとは小さな会社で、ゼロベースから広報を作っていったんだ。なら、自分たちだってやればできるんじゃないか!」と思ってほしいな、と。
会社を興して、アマゾン ジャパンの外に出て感じたのですが、会社の規模に関係なく、皆さんものすごく「広報」を求めてらっしゃいますよね。
井上:そう思います。大企業の場合、すでに広報はあるんだけどうまく機能していないところがけっこう多いんです。「とりあえず広報をやっている」というか。何かを発信していかなくちゃいけないとは思ってるんですけど、広報は最後の最後なんですよね。商品やサービスの開発が全部終わった後に「じゃあ、広報やってよ」みたいなね。
小西:「いちおう情報は出している」けど、「社内からは期待されていない」と。
井上:僕がコンサルとして広報に関わって掲載数がうなぎ上りで増えてくると、今度は逆に「なに派手な活動してんだよ」って内から言われたりする。広報の仕事に対して、そんな理解度しかない会社も割とあります。でも、やっぱりそれは社内の意識を変えていかなくちゃいけない。
ちゃんと広報の仕事を伝えて、どちらかと言うと、最後の最後に情報を流すのではなくて、もっと最初の、開発段階から一緒にやりながら、全体的に広報を絡めた経営にしていく。もう、そういう時代になってますよね。
小西:確かに。「事業や経営を理解せずに広報する」という感覚は、ちょっと私にはあまり理解できないです。
井上:「きちんとした広報をやろう」というサムライみたいな気質の人はいるんですよ。僕はそういう人たちと一緒にやるパターンが多いんですけど、そういう人たちがいない会社の広報は大変です。
いじめられて、広報に入ったけど何もネタにできる情報が得られなかったりする。気合いを入れてやって、メディアに載っても、「こんな表現をしたら困るよ」とか重箱の隅をつつくようなことを言われて、社内をコントロールできない。「とりあえずメディアに載った」というだけでもすごいことなのに!
小西:社内に向けた啓蒙活動も必要なんでしょうね。
広報に理解のない大企業も割とありますが、中小の場合はむしろ「広報をやりたいんだけど、何から手を付けたらいいのか、全くやり方がわかりません」というケースが多い印象があります。
井上:そう。間違った人に教わっちゃってかわいそうなことになるパターンもありますね。そうすると、宣伝まがいの広報になってしまったりする。
例えば、「広報コンサルタント」という人を雇ったら、実際の業務をやるとなっても細かいことは教えてくれなくて、「リリースなんて書けないでしょ? これ作ったけど、あなたたちじゃ配信できないでしょ? じゃあ、うちがやってあげるよ」「確かにやり方わかんないな。とりあえずプロにお願いしてみよう」みたいな。けど、追加でチャージがたくさん掛かって、コストがすごい金額に膨れ上がる。それで痛い目に遭う会社もあったりするそうです。
小西:ああ……それは気の毒ですね。スキルもノウハウも何も蓄積されない。
井上:僕が行ったときには、「お前もその類いなんじゃないか?」とすごく疑われてしまって。
小西:警戒されたんですね(笑)。
井上:そうみたいですね。広報の本来の機能や役割について様々な角度から説明したんですけど、担当者を説得しきれなくて。やっぱり一回痛い目に遭っているとトラウマになっているようですね。「お前が入ったらどのくらいの実績を出せるのか、まずは成果を出してくれ」と言うんですよ。でも、私はコンサルタントで広報のスキルやノウハウは教えますが、実行し結果を出すのは会社の広報部の方です。
広告や販促、PR会社と混同していました。会社を取り巻く人たちと良好な関係をつくり広報活動をする主役となるのはあなたたちだということがわかっていない。手取り足取りいろいろ教えてあげるけど、最後は自分たちでやって、自分たちで結果を出さないといけない。
でも一回失敗して、広報はコリゴリと思ってしまっている。すごく慎重になっていて、ビクビクしている。広報とは何なのか、よくわからないまま外に頼んでしまって失敗する……そういう例はいっぱいありますよ。
小西:やっぱり、「広報そのものが一体なんなんだ」ということですよね。例えば、広報をやっている方々が集まったところで「広報ってなんですか?」と聞いても、答えがバラバラだったりするんですよね。