編集の基本を学ぶ
社内報のリニューアルにあたり、手始めに取りかかったのが勉強です。新しい仕事を担当するとなったら、先輩から学んだり研修を受けたりして勉強しますよね。社内報をフルモデルチェンジすると決めた僕は、やり方の良いお手本が社内にないため、社外にそれを求めました。そして、最初に行ったのは、旧知の雑誌編集者に社内報を見てもらいダメ出しをしてもらうことです。「なぜ読まれないのか?」をプロの視点からあぶり出してもらい、改善するための切り口を見つけ出そうとしたのです。また、付き合いのある新聞記者にも同じことをお願いしました。
両者ともプロの視点からかなり率直な評価をしてくれました。当然社外の立場からですので、物言いはかなり控えめでしたが、正直なところ耳が痛いことばかりで心が折れそうになりました。世間では情報のデジタル化が進み、読者の紙媒体離れが進む厳しい環境の中で「どうしたら読んでもらえるか」について日々苦闘している彼らの目からすると、アマチュアの企業社員がつくる社内報なんて、ほんのお遊びにしか見えないのです。
しかし、僕にとっては大きな収穫がありました。ひとつは、制作ノウハウの一部を直伝してもらったこと。そしてもうひとつは、誌面に何かしら新しい情報や発見がないと読者は手に取って読まないという紙媒体の原理原則を教えてもらったことです。
後者は、僕自身がいち読者として考えると当たり前なのですが、社内報はその成り立ちから、「社員は読むのが当たり前」なる幻想があり、つくり手は甘えていると気づかされました。
制作を担当するにあたり、やはりプロと同じレベルのスキル習得が必須だと感じました。そして一番効果的な研修として教えられた「編集・ライター養成講座」の受講を決めました。平日は会社で仕事をして、週末の土曜日は静岡から東京へ通い、雑誌づくりや文章の書き方などの講座を受ける生活を半年間続けました。
講座では、非常に多くのことを学びました。腹に落ちたのが「企画」の大切さでした。
同講座には、編集やライターの仕事をしているプロフェッショナルによる授業があり、文章を書くことも学びました。その中で特に印象に残っているのが「書くことは自分自身と向き合うこと」として、小グループで自己紹介・自己表現をするセッションです。
はじめは「こんなことを言うと変なやつと思われないか」と気にしていましたが、話してみると周囲が意外なほど僕の話に興味を持ってくれ、それをきっかけに「書くこと=自分が思っていること」を素直に表現することへの抵抗がなくなったのです。伝えたいことを明確にすれば、拙い表現でもメッセージは伝わる。このことを体感できました。
そこでは、何を伝えるか(What to say)の大事さも実感しました。広告などを含め、あらゆる制作物の基本の考え方でもあります。そして、それを明確にするため企画書をきちんとつくり、何を伝えたいかを制作関係者全員で共有する。そうすれば、文章が多少拙くても問題はないと気づかされました。
もちろん、文章の表現力次第で浸透力は変わります。しかし、我々がつくりたいのは文芸書ではありません。会社がこれからどうしたいか、社員はどう働いているか、そのメッセージが仲間である社員へしっかり伝わればいいのです。以前は文章としての完成度が気になっていたのですが「伝えたいことが表現できていること」、そして「読みやすさ」が保たれていればいいのだと体得しました。
ただ、企画書は毎号、コーナーごとにしっかりつくります。社内報は、経営と社員をつなぐ特別なツールです。経営は何を伝えたいか、社員は何を知りたいかが分かるのは社員だけですから、社内報の企画は社員がやらなければ成立しません。社員は、アウトソースできない企画作業に集中し、取材や原稿制作、誌面デザインなどはプロにお願いして任せた方がいい。講座に参加してそう気づきました。
山下和行(やました・かずゆき)
ヤマハ発動機
企画財務本部経営企画部
早稲田大学商学部卒。1990年ヤマハ発動機入社。本社勤務後、中国と米国で通算12年の海外勤務を経験。赴任国では、セールス&マーケティング、広告宣伝、事業戦略を担当。帰任後は本社でブランディングとインターナルコミュニケーションに携わり、現在は経営企画部で戦略を担当。
講師陣は、総合誌、週刊誌、ビジネス誌、ファッション誌、Webメディアなどさまざまな分野の現役編集長や、第一線で活躍中のライター・ジャーナリスト・作家など。多くの課題添削、実践トレーニングを通じて、現場で活躍できる編集者、ライターを養成します。