ケロッグの公式Twitter、即座に反応
2019年12月22日、漫才の日本一を決める『M-1グランプリ2019』(ABCテレビ・テレビ朝日系列)がオンエアされ、内海崇と駒場孝のコンビ「ミルクボーイ」が優勝した。そのネタがコーンフレークと最中(もなか)だったことから、ケロッグの公式Twitterは直後に祝福コメントをツイート。
ミルクボーイさんのコーンフレーク?のネタ、腹筋崩壊レベルでわらったw
史上最高点での優勝おめでとうございます?#M1グランプリ2019 #M1グランプリ #グーーーレイトォォ
— ケロッグ (@KelloggsJP) December 22, 2019
翌23日の夜には、ミルクボーイにコーンフレークを一年分プレゼントすることを確約。それに対して、ミルクボーイの2人もTwitterで喜びをリツートした。
ミルクボーイさんの #M1グランプリ 優勝を祝福して、ケロッグ #コーンフロスティ 1年分をプレゼントしたいと思います?‼️
中華の回転テーブルの遠心力には敵わないけど、ミルクと一緒に食べてね??
改めましてM-1優勝おめでとうございます? pic.twitter.com/b2JTO965xG
— ケロッグ (@KelloggsJP) December 23, 2019
あ~ありがとうございますー!
今、1年分のコーンフレークをいただきました!
ありがとうございますー!
こんなんなんぼあってもいいですからね! https://t.co/y6zYsKY1bg— ミルクボーイ内海 (@uttakaga) December 23, 2019
おかんが言うには、量が想像もつかんらしいねん。
ありがとうございます!! https://t.co/W077z44o7Z— ミルクボーイ駒場 (@88MBOy) December 23, 2019
確かにコーンフレークというとケロッグを連想する人は、ほぼ100%だろう。今回筆者も調べて分かったのだが、1898年にケロッグ社の創設者であるW.K. ケロッグと J.H.ケロッグ博士の兄弟はグラノーラを作ろうとして失敗し、手違いで小麦の生地をフレークにしたことが誕生のきっかけだった。日本で発売されるようになったのは、1963年のことである(日本ケロッグ公式サイトより)。
お笑いを通したプロダクト・プレースメント
今回のM-1グランプリは5040組が参加した。ファイナリスト9組のなかからミルクボーイが優勝したことを踏まえ、「1年分のプレゼント」を決断したケロッグの判断は実に素晴らしい。
影響はそれだけではない。番組は平均視聴率17.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)となり、コーンフレークや最中の売り切れが続出した。
報道によると、ケロッグ社への発注が5~6倍となるなどM-1特需が起きているそうだ。ミルクボーイなので牛乳の売上が伸びるかと思ったら、ネタのコーンフレークの需要が伸びたのだ。確かにそうだ。筆者自身も1年以上、一度もコーンフレークを食べていない。
でも、今回のネタを聞いて久々にコーンフレークを思い出した。ちょっと食べたくなったのである。ある意味、広域のプロダクト・プレースメント(映画・ドラマなどの作品に商品そのものや企業名を忍び込ませる手法のこと)に、筆者の脳も影響されたのだ。
「コーンフレーク」のマイナー感がちょうどいい
ミルクボーイがもっと有名だったら、これほど爆発的なPR効果は得られなかっただろう。実は、筆者は放送業界にいるにもかかわらず、このミルクボーイを知らなかった。今回の優勝で初めて知り、大爆笑をしたのである。元々有名だったら、今回ほどのPR効果はなかっただろう。
PRはインパクトが一番大切。じわりじわりと時間をかけてヒットした場合、爆発することはあまりない。
筆者は、YouTubeで過去のネタもほとんど見たのだが、切れ味が悪い。そう、以前は、ネタは一緒でもつまらなかったのである。何度も舞台に登っている間に切れ味が出たのだろう。
放送作家の観点からいくと、「食パン」でも「お米」「タピオカ」でもなく「コーンフレーク」はちょうどいい。
大前提として、このネタに関して、ミルクボーイは、ケロッグ社に依頼されてこのネタをつくったわけではない。だからこそ、自然と面白さが滲み出ている。
もし、このネタが「食パン」や「お米」だったらどうだろうか?きっと笑いにつながらなかっただろう。注文が5~6倍になるということもなかったはずだ。「タピオカ」だと、お母さんの話として、突っ込みがいがない。
こう言ったら怒られるが、コーンフレークのマイナー感が、ネタの切れ味の良さにつながったのだろう。食パンやお米ではボケにくい。「なんでわからないんだ?」と、思い出せないお母さんの方に矛先が行ってしまう。
ミルクボーイの過去のネタを見ると、今回のコーンフレークのネタの他にも「最中」「デカビタ」「サイゼ」「滋賀」「SASUKE」「ハト」「痔」など、固有名詞のセレクトをちょっと外しているところがうまい。
商品をバカにしていても売れてしまう、意外な構図
このミルクボーイのコーンフレークネタを、ちゃんと見てみると、なかなかの辛口だ。
「人生の最後がコーンフレークでええわけないもんね」
「パッケージに描かれてる(栄養素の)五角形、めちゃめちゃデカい」
「晩飯でコーンフレーク出てきたら、ちゃぶ台ひっくり返すもんね」
「コーンフレークは生産者さんの顔が浮かばへんのよ」
など、ツッコミを入れるたびに会場で笑いが起こる。
そう、ちょっと馬鹿にしている感じが面白いのだ。褒めているわけではない。
このミルクボーイのネタは、誰もがコーンフレークに対して思っている「主食なんだけど、お菓子っぽい」というところが面白さのツボなのである。そのちょっと馬鹿にしていた感じが、人々の消費行動に火をつけてしまったのだろう。視聴者も、「ちょっと食べてみるか」と思い始めたのだ。
今後、「湯葉」「サイゼリヤ」「デカビタ」も売上が伸びるかもしれない。もしかするとサイゼリヤや、「デカビタC」を作っているサントリーは期待大だ。というか、すでにCMなどのオファーを出しているのかもしれない。
既に今週の広告会社やPR会社などの会議で、ミルクボーイが話題になっている。
「商品名を提示したらCM出演してもらえるのだろうか?」
「PRイベントで、“それ○○やんかい!”っと突っ込んでもらえないか?」
などという会議は始まっている。
NDAの関係で詳細は言えないが、2020年は、そんな感じの露出が続々と登場するだろう。
2019年最大のプロダクト・プレースメント
このような偶発的な「プロダクト・プレースメント」で大ヒットしたのは久々だ。意図せずして、2019年最大のプロダクト・プレースメント案件となったといえるだろう。
今や、ドラマや映画に商品が登場しても、そのものが売れる可能性は低い。映画のロケ地などの聖地巡礼ブームなどはあるにせよ、以前のように、作中に登場した車や時計などにステータスを感じてもらって売れる時代ではない。
今回の大ヒット、筆者は1975年に大ヒットした曲『およげ!たいやきくん』を思い出した。
誰もが、それまでマイナーだった「たいやき」を食べたいと思い、大ブームにつながった。
その後も、ドラマ『男女7人夏物語』(1986年)では、留守番電話。『踊る大捜査線』(1997年)では、青島刑事が着ていた緑色のモッズコートがブームになったのを思い出す。
お笑い番組、しかも漫才師の「ネタ」からブームになったのは、ボクが知っている限り今回が初だろう。しかも彼らのネタは、ちょっとマイナーな商品なら人気になる可能性がある(筆者的にはデカビタCが来そうだと予測)。
今後の二人の活躍とPR現象との関連性をウォッチしてゆこうと思う。