「もしかすると、カルロス・ゴーン氏が述べていることは本当かもしれない」。そう思った人も数多くいたかもしれない。その時点でこの会見は勝ちである。もちろん、勝者はカルロス・ゴーン氏とその家族である。
日本時間の1月8日夜に行われた、2時間25分の長丁場の記者会見。筆者は、早回しも含め、2回半見て分析をした。さらに細かい分析をするために週末にあと2回ぐらい見直すだろう。各PR会社さんも行っているに違いない。
今回の会見から学ぶことは非常に多い。筆者も8日の深夜から分析活動をし、9日にはいくつかのクライアントさんにレポートを提出したほか、分析会議が行われた。学ぶべきことが非常に多いのと、社長のプレゼンテーションの教科書としては見習うべきところが非常に多かったからである。ただし今回は、プレゼンテーション的視点は後回しにし、会見の内容だけに集中して分析をしてみたい。
筆者は、この事件の真実や行く末に関してはジャッジする立場にはないというスタンスである。それよりも気になるのは、今回の広報戦略だ。いくつかの企業の広報も非常に気にしていた。早速だが、ポイントを挙げていこう。
プロのPR会社の仕切りである。
報道によると、今回の会見を仕切ったのは、フランスの広報会社「イメージ7」だという。筆者はこの企業の名前を知ったのは今回が初めてである。
会見の節々にPR会社の女性の方が写っていた。イメージ7のアン・モーさんである。会社のサイトを見る限り、CEOのようである(残念ながらそれ以上の情報を調べるのにはちょっと時間が足らなかった)。
筆者が某グローバル企業に提出した資料には、フランスで万が一のことがあったときには、この広報会社は信頼に値すると進言をしておいた。それくらい上手な会見だった。
フランス・アメリカの広報を絶妙に使っている。
昨年の12月31日に最初にカルロス・ゴーンの出国のニュースを報道したのは、ロイター通信だった。「私はレバノンにいる」と声明を発表したのだ。アメリカの広報担当者を通じて発表されたという。
つまり、無事レバノンに到着し安全を確保したあと、アメリカの広報担当からコメントを発表した。さらにその後、家族で和んでいる写真を公開し「レバノンは幸せな国である」ということをレバノン国民などにもアピールしていた。そして、今回の会見はフランスの広報会社が仕切る。広報戦略も準備万端である。
世界に対し、自身が余裕があることを知らしめたのである。絶妙なイメージ戦略である。新年らしい、いいムードを演出している。これは、筆者には思いつかない戦略だ。「反感を買うのではないか?」と怖くてできないやり方だ。
最初は、逃亡後の活字によるコメント。第二段階では、現地での写真。第三段階では記者会見(ある意味、一方的な発表動画ともとれる)という計算し尽くされた広報戦略である。多分、これで終わりではなく、その次もあるのだろうと予想される。
日本の司法制度の問題点をロジカルに分析して、他の先進各国と比べてどうなのか?プレゼンテーションをして、世界を味方につける可能性もある。