新しいシーンや使い方から、消費者も意識していない“ほんとうの欲求”を読み取る
では、新しいシーンや使い方を見つけたとして、その価値=意味を明らかにするにはどうすればよいでしょうか。
直接、対象者に「あなたはどのような価値を感じていますか?」と聞けば、それがわかるでしょうか。
そのように単純にはいきません。
なぜなら、消費者がその新しいシーン、新しい使い方で感じている価値は、彼ら自身も明確に意識していないからです。
そこで行われていることに、どのような良さがあるのか。そのような良さを感じさせているのは、どんな要因なのか。そういったことに、消費者は無自覚です。
意識していないことを、直接的なインタビューやアンケートで無理に言葉にさせようとすると、消費者は既に意識の中に上っている理屈で辻褄を合わせようとします。その理屈に乗っかっていくと、表面からは見えにくい「ほんとうの欲求」からズレてしまい、往々にして的外れで残念な結果になってしまいます。
この連載の読者であれば、もうおわかりかもしれません。自分でも明確に自覚できていない欲求が、新しいシーンや使い方によって充たされている。これがその人にとって意味があるという状態です。この意味があるという状態は、「価値のインサイト」であると言うことができるのです。ちなみに、その欲求が充たされていなければ、「不満のインサイト」です。
従って、新しいシーンや使い方の意味を探るには、そこで感じられている価値のインサイトを探ればよいということがわかります。そして、その際に、テーマとなっている製品に感じる不満や欲求も確認することで、アイデアのヒントが得られることになります。
ロウソクで考えてみましょう。ロウソクはどのような新しいシーンで使われているか。その時に、使っている人はどんな気分や気持ちなのか。そのように感じさせるのは、ロウソクの持つどのような物性や五感、使用方法などのファクトなのか。そう感じるのは、その人にどのような背景があるからなのか。このように、具体的にインサイトの構成要素に基づいたシーン&ベネフィットを見つけ出すことが重要です。
そして、そのようなインサイトから見て、現在のロウソクにはどのような不満が感じられているか。こうなってくれたら良い、という未充足の欲求はないか。これらを明らかにすることで、新しいロウソクの製品アイデアや、プロモーション、コミュニケーションの開発のヒントなどを得ることもできるのです。
ここで得られるヒントは、全く新しいイノベーションというわけではなく、既存の製品にちょっとしたアイデアを付加する、パッケージや売り方を考える、といった具合に、現状の製品の延長線上で考えられるものです。そこで得られた意味に基づいて、製品を微調整したり小さな改善をしたり、ということを行おうとするものです。
このように、消費者自身も自覚していない「ほんとうの欲求」を見つけることで、新たな意味へのリニューアルというヒットへの有効な手がかりを得ることができます。
自覚していないが故に、その探索にあたっては注意が必要です。可視化されていないものを明らかにしていくためのリサーチの技法や考え方のフレームも重要になります。
表面的な不満に振り回されることなく、大きな転換の手がかりを見つけてください。
書籍案内
新刊『ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚』(2020年1月10日発売予定)
チャンスは常に人々の「隠れ不満」の中にある。いま「ほんとうに欲しいもの」は、消費者本人も自覚できていません。社会が成熟した現代に重要なのは、「本人も無自覚な不満」を理解することです。本書では、この「無自覚な不満」を起点にして、「ほんとうに欲しいもの」を見つけるシンプルなフレームワークを紹介します。