娘から母へ、乳がんチェックの背中を押すシーンを広げたい
大山:横浜市では昨年度より、民間企業などと連携しながら医療広報を実施する「医療の視点」プロジェクトを開始しました。このプロジェクトは医療局の広報を統一的に行うことに加え、民間企業の知見も活用させていただきながら医療に関する情報をこれまで以上に届けていきたいという狙いがあります。
その活動の中でTikTokに着目したのは市の持つツールやこれまでの取組の延長線上だけでは広報や啓発を届けきれず、ある種情報伝達に限界を感じていたからです。
村山:いま健康な方ほど医療への関心は低く、医療情報がなかなか届かないことを課題に感じていました。特に乳がんは早期発見が重要であり、どうすればセルフチェックや検診を促したい層にアプローチできるかを考えた結果、TikTokさんとの連携に至りました。
大山:ダンスと音楽で楽しめるTikTokを活用すれば、10〜20代の若年層が関心を持ってくれるはず。そうして、まずは「子ども」層に乳がんという疾患に関心をもってもらい、次に本来のターゲットである40〜50代の「親」層に、正しい疾患に関する知識や早期発見の重要性を子どもから伝えてほしい、という伝達構造を考えたのです。
千島:乳がんは40~50代の女性に多く発症します。家庭ではお母さんとして日々忙しい上に、仕事にも全力で取り組んでいるこの世代は、なかなか自分の体に関心を向ける余裕がありません。実際に、乳がんと診断されてから初めて「なぜ今まで検診に行かなかったのだろう?」と思われる方も少なくありません。
今回、横浜市から「子供世代から親世代に乳がん検診の重要性を伝えたい」という相談を受けたとき、まさに「医療の視点」というプロジェクト名にふさわしい「新しい視点」での啓発が出来るのではないかと感じました。
外来で患者さんに手術や抗がん剤治療の説明をするとき、高校生や20代のお嬢さんたちが同席されることもあります。抗がん剤治療が必要となる場合は、副作用への対応でご家族の援助が不可欠となり、患者さんだけではなく家族全員の生活に影響が出てきます。だからこそ、家族の方から「お母さん、最近検診に行った?」「乳房(おっぱい)で気になることはない?」と声をかけてもらうことで、少しでも乳がんの早期発見につながるのではないかと考え、プロジェクトの監修を引き受けさせていただきました。
今は若い世代からの「がん教育」が必要だと言われていますが、マスコミからの情報だけでは、どうしても悲劇的な側面が強調されて伝わってしまいがちです。まずはTikTokのように親しみやすいツールから関心を持ってもらうことで、女性のライフサイクルについて理解してもらい、乳がんに関する正しい情報を伝えることが出来れば、「がん教育のあり方」という意味でも非常に画期的な挑戦になると思っています。
「かわいく映りたい」というインサイトに応える
松原:大山さんや村山さんと打ち合わせを密にさせていただき、千島先生にご監修いただいた上で、9月末からハッシュタグチャレンジ「♯胸キュンチェック」を実施しました。楽曲、歌詞、ダンスはすべて新たに制作。動画で出演していただいたのは、約37万人のフォロワーを持つサラ・コールディさんです。真面目なコンテンツをしっかり伝えられるインフルエンサーを、という視点からサラさんにお願いしました。
廣谷:過去の調査結果から、TikTokで動画を投稿してくれるユーザーには、特に女性の場合「かわいく映りたい」というインサイトが見えていました。
楽しく踊れる、自分をかわいく見せられる、というTikTok内の文脈に則りながらも「乳がん」というテーマを伝えるにはどうしたらよいかと考え、毎朝鏡を見て髪の毛をチェックしたり、ネイルをチェックしたりするように「胸キュンチェック」をする、というダンスに変換しました。
村山:楽曲やダンスについては、TikTok Adsさんの意見を全面的に頼りにさせていただきました。結果、これまでの行政からの発信とはまるで違う仕上がりになったと思います。市の職員からもポジティブな反響がありました。
一方で医療局としては、患者さんやそのご家族がご覧になっても不快にならないように、という点に注意しました。ダンスと音楽を使って医療に関する啓発をすること自体が初めてだったので、制作過程を関係者間で共有して巻き込んでいくように工夫しました。
大山:ダンスを使った啓発というと、ともすればセルフチェックの動きを教えるレッスン動画を想像すると思います。さらに、伝える意義のあることだからこそ「乳がんの啓発」と全面的に動画で訴えたくなってしまう。それをなるべく避けて、楽しんでもらいながら関心を持ってもらい、結果として若年層に広がっていくことを目指しました。
注意した点については、「炎上しないように」と言うと一見ネガティブな表現ですが、「こうした取組を継続させていくために、意図しないところで誰かを傷つける表現にならないように」心がけました。言い換えれば、これまで行政がチャレンジしていない分野にアプローチしているという自覚があったからこそ、「内容や情報も盛り込んで、目いっぱい挑戦する」のではなく、次回以降にもつなげるためのバランスをとることが重要だと思っていました。
廣谷:こうした大山さんの姿勢から、短期的な成果以上に、長期的な視点でビジョンを実現していこうとされているのだと感じました。
総再生回数1.1億回、動画シェア数は平均比で約3倍に
松原:ハッシュタグチャレンジの結果、総再生回数は1.1億回を突破しました。特徴的だったのは、SNSでのシェア数が他のキャンペーンの平均に比べて約3倍にまで伸びたこと。特設Webサイトとダンス動画の両方で強調して伝えた「大切な人にシェアしてね」というメッセージが響いたのではないでしょうか。
廣谷:ユーザーからは「こういう“正統にかわいい”動画を待っていた」という声もありました。「無関心の壁」に対して、まっすぐにセルフチェックや検診の重要さを訴えるのではなく、歌やダンスで自分をかわいく見せられることを入り口にしたことによって、関心度を上げることや、動画の拡散にもつながったのではないかと思います。
千島:「医療」と「かわいい」は、本来あまり交わらない文化だと思っています。でも、本当に伝えたい人に、大切なことを伝えるには、“医療現場にある常識”ではなく、むしろ“医療現場にはない文化”に訴えかけていく必要があるのではないかと考えました。
今回のプロジェクトでは初めに「若い世代から親世代に啓発してもらうことで乳がんを早期に発見し、ゆくゆくは乳がんの死亡率減少につなげたい」というビジョンをメンバー全員で共有しました。そのうえで、各自が役割分担をしながらミッションを遂行したことが成功の要因ではないかと思っています。まさに、One Teamになって取り組んだ結果ではないでしょうか。
大山:いま世の中には伝える手段がどんどんと多様になってきていますが、世間で流行しているものには必ず理由があるので、そうした動きを捉えながら、自治体も構えすぎずに活用できるところから進めていけたらと思います。今回の取り組みからは、次につなげられる可能性を強く感じたので、今後もぜひ力を合わせて、医療の広報・啓発に取り組んでいきたいです。
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