世界に後れを取る日本企業のDX 巻き返しのカギは高品質サービス+エコシステム構築にあり

20世紀のトランスフォーメーションは生産の自動化と標準化

ビジネスの歴史を振り返ると、18世紀から20世紀にかけて最も影響力のあるイノベーションは蒸気機関と電気でした。特に蒸気機関は、今まで自然や動物の力や人的労働に頼っていた移動手段を変えただけでなく、機械化にともなう分業化と熟練労働の標準化によって、これまでの生産性を一気に高めることを可能にしました。

このように、20世紀の革新的なテクノロジーとは、蒸気機関が象徴するように、肉体労働や熟練労働のような従来の「生産力」の向上と標準化に寄与するものであり、その結果として、労働力の管理という課題が出てきて、「経営学」の進化につながりました。

したがって生産性向上のためのテクノロジーの進化は、経営学において、フレデリック・テイラーによる科学的管理法と双璧をなしていて、この時代のビジネストランスフォーメーションは、生産管理から始まっています。生産管理という点においてテイラー主義は、時代に沿って変化はしていきますが、生産管理に主眼があることには変わりがありません。基本的に20世紀という時代は、製造業主導の工業化がその成長を牽引していたのです。

これは、また多くの人の生活を改善するために、廉価で良質な商品を手に入れることができるようにする、大量生産と大量販売という「フォード主義」という言葉でも言い換えられます。自動車王ヘンリー・フォードは、馬が移動手段の時代に、高価だった自動車を大量に製造し、手に届きやすい価格で一般の人々に提供したことで知られています。フォードのこのやり方は、自動車以外にももちろん適用できました。

そして、これまで高価だった商品を技術の発展と「生産管理」により一般に普及させることを主眼においたビジネスは、結果的に広く消費者に情報を届けることができるテレビを始めとするマスメディアを、マーケティング上重要なチャネルとして発展させてきたといえます。

日本が優位に立った「生産・時間管理」によるトランスフォーメーション

しかしながら、1970年代以降になると、先進国においては生活に必要な商品は満たされて、生産管理にも変化が現れてきます。大量につくるだけでは、もはや売れなくなるという状況に陥り、売ることについての「情報」が重要になり始めたのです。

これにより、今度は生産自体の管理が変わっていきます。その変化とは、大量につくるのではなく、売れない商品を生産しないようにする。つまりは不良在庫を減らすための生産管理をするという方向に変わっていきます。

代表例は、ご存知の通り、トヨタのカンバン方式であり、在庫品を極力減らすための部品の共有化、メーカーだけでなく部品ベンダーも含めた生産管理、そして需要と供給の時間的差異をなるべく短くする、という徹底した効率化による生産管理法です。これはテイラー主義の視野には生産過程だけでない、需要と供給のあいだの「時間管理」が含まれていることを意味します。

次ページ 「流通主導によるサプライチェーンの「情報化時代」へ」へ続く

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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