軸を変える、新しい「見方」で資源を定義する
音部氏が定義した、「リプトン」の資源は、非常にユニークな視点ではありますが、このように自社の資源を新しくとらえる方法にはいくつかのアプローチがあります。資源と聞くと、「ヒト・モノ・カネ」のような、実際に目に見えて活用できるものを、思い浮かべがちですが、軸を変えて見る必要があるのです。
軸のひとつ目は「時間」です。生産や流通過程における資源というと、コスト(カネ)や、工程(ヒト)に着目されがちです。しかしトヨタ自動車の「カンバン方式」のように、「時間」を資源として設定することも可能なのです。
「カンバン方式」は生産工程上の効率化、とみなされていますが実際は、「時間という資源の定義」によって生まれた新しいトヨタの競争優位性なのです。なぜならば、すべてのサプライチェーン上で、需要が起きるタイミングに即して無駄なく製造するというやり方を実施するためには、部品メーカーなどを含むすべてのプレーヤーと共同で進める必要があるからです。これは単純なコスト削減やベンダーコントロールとは異なります。
また流通過程で「時間」を資源にする方法もあります。アサヒビールが「スーパードライ」で「消費期限」という新しい尺度をビール業界にもたらしたのが好例でしょう。それまでビールは製法による「生」に近い味をその優位性としていましたが、アサヒの「スーパードライ」の強みは、在庫リスクにも成り得る「鮮度」という資源の設定をしたことで、消費者には「スーパードライが」「鮮度が高い=より出来立てで美味しい」優位性となり、また流通においては鮮度が高いうちに売るようになるという回転率を高める効果を生み出しました。
このため店頭の棚には常に鮮度を保つために「スーパードライ」が配荷されるという循環を生んだのです。近年、業務用でもアサヒビールが「エクストラコールド」のような温度管理の優れた他社よりも冷えたビールを飲食店に提供するのも、そのような「鮮度」を強化する一貫だと言えます。
この「時間」という資源は、様々な応用が可能で、ディズニーランドの待ち時間に適用した「ファストパス」も有名なケースです。また、Uberなどの配車サービスやフードデリバリーサービスもある意味で「時間」という資源を顧客側がコントロールできるように設計した例ではないかと思います。「時間」という資源は、デジタルテクノロジーとアプリによって体験として実感できるものが拡大しつつあります。
「地域性」という資源
2つ目は、地域性や場所という資源です。インターネットが浸透した世の中においても、私たちが旅をする機会は少なくなってはいません。特に90年代以降に生まれたミレニアル世代にとっては、海外旅行は以前のような贅沢な観光ツアーではなく、新しい発見や気軽な交流のための機会になっています。そしてこの地域性はAir bnbが人々のネットワーキングと文化交流という意味で「資源」として活用しています。Airbnbは、自ら投資してホテルや住宅を作る必要はなく、すでにある家を「資源」としてネットワーキングし、今まで知らなかった人に紹介することで競争優位性をつくり上げています。
「地域性」という資源は、実際は太古から商売として歴史のある「商人資本」と同じです。日本で当たり前にあるものも、外国にとっては特別に価値があるものに見えます。もっとも単純なのは食べ物や工芸品や芸術品、そして観光名所ではありますが、21世紀のいまでは、「日本語を話す」こともインターネットを介して資源になり得るわけです。最近、米国で話題になった片付け法の「こんまり」も、このような特性によって資源と化した例ではないかと思います。この地域性を資源とするビジネスは、地域と地域を結びつけるインターネットのようなテクノロジーがもっとも得意とする領域です。