「意味」という資源
3つ目は、「意味」という資源です。これは「リプトン」のティーバッグの例と同様で、単に商品そのものや資源だけを見ていても新しい発見がありません。故・クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」と同様に、自社が持つ資源を、顧客の状況や文脈において考える必要があります。「意味」とは、ジョブ理論の例でいえば、ミルクシェイクが単なる飲み物ではなくて、「朝食がわり」「長時間退屈しないもの」という意味をもつことが重要です。そして、このような意味は、顧客の特定の状況がわからなければ浮かんでこないものです。
このような発見について、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授は「意味のイノベーション」という言葉を使っています。ベルガンティ氏は、顧客の人生や価値観にとっての「愛するもの」として資源を定義することをすすめています。これはある意味で、「ヒト」という資源において、心の根底にある不安や期待のような感情を掘り下げる方法でもあります。
ベルガンティ氏の例は、ロウソクです。ロウソクは、明かりを灯すという機能的な意味合いではすでに電気やほかの手段で満たされているにも関わらず、揺れる炎を暗闇の中で見つめ、リラックスした空間をつくり出すという「意味」を持つことで人々に愛されている、という点を指摘しています。
最近、カーシェアリングサービスの利用者の報告で、車をまったく移動させずに車内で過ごす人がいる、というものがありました。これも、車が移動手段なのではなくて、誰も気にせず個人のスペースを占有できるという場所、としての「意味」が顧客にはあるという実例だと思います。おそらく外回りのセールスなどの人にとっては、ネットカフェやカラオケボックス、スターバックスよりも落ち着き、一人だけの空間を味わうことができるからかもしれません。この場合、車の資源とは、移動のモビリティだけではないのだと言えます。
このように、新しい戦略を生み出す際には、新製品や新規事業のように外部環境やすでに顕在化した市場に目がいきがちですが、ブルーオーシャン戦略における競争優位性の定義や音部氏の提案のような、「資源」の捉え方によって生み出す方法が、現在のような競争環境においては有効であるように思えます。皆さんも自社の資源を新しい目で捉えて、新しい市場の発見のきっかけを掴んでいただければと思います。