キオクシアが社名変更にあたって昨年10月に開始した「#世界新記憶」キャンペーンの第1弾「TEZUKA2020」。「もしも、今、手塚治虫さんが生きていたら、どんな未来を漫画に描くだろう?」をテーマに、同社のテクノロジーとAIを用いて、新作漫画を制作、発表するプロジェクトだ。このプロジェクトで完成した漫画『ぱいどん』が、明日2月27日発売の漫画誌『モーニング』13号(講談社)にて掲載される。今号では巻頭の4ページでプロジェクトを特集し、その後の20ページで『ぱいどん』を掲載する。
『ぱいどん』の舞台は管理社会が進んだ2030年の東京。記憶を失くしたホームレスの哲学者が、小鳥ロボットの「アポロ」と共に事件の解決に挑むストーリーだ。
「#世界新記憶」キャンペーン開始時からクリエイティブを手掛けるWunderman Thompson Tokyoのクリエイティブディレクター 新関慎一氏は「完成した漫画をどこでお披露目するかについては、プロジェクト初期から議論が交わされました。中でも、手塚治虫漫画といえば紙に印刷されたものであること、紙の手触りやページをめくる記憶も含めて漫画なのではないか、という考えから、紙媒体にこだわりたいという声が多くありました」と振り返る。
そんな中、以前手塚プロダクションと講談社で共同開発したコミュニケーションロボット「ATOM」の実績から、人工知能が漫画を描くということに興味を持ってもらえると判断し、プロジェクト側から『モーニング』に声をかけた。
「しかし当初は掲載に難色を示されました。編集長からは『あなたたちのやっている漫画はほぼ人間によるもので、いわば同人誌と変わらない。わたしが見たいのはAIがどこまでやれるか、です』とコメントも頂きました。それに対しプロジェクトメンバーからは『AIは人間の発想を支援する役割であること』『AIを知れば知るほど人間の想像力の深淵さを思い知らされること』『今回のプロジェクトは人間とテクノロジーの関係性を問うものであること』『漫画の未来へのきっかけだと思っていること』などを伝え、モーニング編集部との深い協議がされた結果、特集内でAIの役割を明確にするという形で、今回の形式での掲載が決定しました」(新関氏)
『ぱいどん』は手塚治虫氏の作品を学習したAI技術がプロット(漫画の基本的な構成要素)やキャラクターをつくり、それをベースにクリエイターが手を加えて完成した。
ストーリーは、手塚治虫作品の世界観・時代背景・キャラクターなどを人間が分析し、データ化した上で、AI技術に学習させ、漫画の世界観、登場人物像、あらすじなどの構成要素から成るプロットをAI技術が生成。そのプロットから人間が発想を広げてシナリオ化した。一方キャラクターは、スキャンした手塚治虫氏の作品データから、登場するキャラクターの“顔”を抽出し、AI 技術に学習させ、キャラクターの顔画像をAI技術が生成。その顔画像から人間がシナリオに沿って服装等のキャラクターデザインを行った。
プロジェクトメンバーは、キオクシア「TEZUKA2020」プロジェクトチ―ム、手塚プロダクション取締役 手塚眞氏、公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏、公立はこだて未来大学システム情報科学部教授 迎山和司氏、慶應義塾大学理工学部教授/電気通信大学人工知能先端研究センター特任教授 栗原聡氏。
手塚プロダクション取締役 手塚眞氏は、「今回のプロジェクトでもいくつもの困難な局面を乗り越えた結果、手塚治虫作品を学習したAI技術が生成したプロット構成要素や、キャラクター画像には『手塚治虫らしさ』が確かに存在していました。
さらなる研究と検証が必要にはなりますが、AI技術は私たちクリエイターにとって心強いパートナーになり得るのではないかと期待を寄せています。こうしたテクノロジーは人間の使い方ひとつによって、結果が大きく変わります。
結局はテクノロジーの面においても、クリエイティブの面においても、もっともっと努力し、創造の可能性を広げ、正しい使い方を探求していくことが人間に求められているのではないでしょうか。私は、多くの人に『未来に夢を持って欲しい』と思っています。私たちは手塚治虫作品からその点を学んできたはずで、『ぱいどん』からもこうした想いが伝わることを願っています」とコメントした。
制作を追った動画も明日27日公開予定。Wunderman Thompson Tokyoとギークピクチュアズが制作した。
公開にあわせて、3月20日まで、手塚治虫作品の中から一番記憶に残る作品・キャラクター・思い出に「#マイベスト手塚」をつけてTwitterで投稿すると、『ぱいどん』の限定キャラクター画をプレゼントするキャンペーンを実施中。