それは本当に共感を呼ぶのか? 世間とのズレがないか?を考える
パーパスの解説に入る前に、少し時計の針を巻き戻してみましょう。
1970年代の終わりに、政府主導で行われた“省エネルック”という施策がありました。
職場で、クーラー(当時はエアコンとは呼ばれていませんでした)の使用を控えても、涼しく過ごせるように、スーツのジャケットを半袖にしたスタイルの提唱です。
第二次オイルショックを背景に、「省エネルギー」が社会的な課題となったことを受けて始まったものです。
当時の大平正芳首相や、旗振り役と言われた羽田孜議員がこのスタイルで国会の場に登場し、積極的にPRを行いましたが、結局は普及しませんでした。
一方でその後、実施された“クールビズ”は、ビジネスパーソンの共感を呼び広く普及しました。現在でも夏のノーネクタイ、ノージャケットスタイルはビジネスの現場においても完全に定着していると言っていいでしょう。
この2つの施策の違いは、何だったのでしょうか?
2つの施策のパーパスは同じで、「夏場のエアコンの使用を控えて省エネルギーで働いてもらう」という行動・習慣の変化です。
省エネルックでは、長袖のスーツは暑いということから、スーツを半袖にしました。しかしファッションとしてお洒落とは言えず、ビジネスパーソンがそれを着たいという気持ちにならなかったのが普及しなかった原因だと思われます。スタイルとして、ビジネスパーソンの共感が得られなかったのです。
一方でクールビズは、ネクタイに着目しました。
当時から残業の際にネクタイを外すビジネスマンは多く存在しており、ネクタイが暑苦しく、拘束感が強いものだったことがわかります。つまり、ビジネスパーソンには「ネクタイを外して自由な気分でいたい」というインサイトがあり、それをクールビズは捉えたのです。
こうしてノーネクタイというスタイルがクールビズのひとつのシンボルになりました。対象者のインサイトを捉えていたことで、経営者、管理職、若手ビジネスパーソンなどが一気に賛同し、以降も定着する施策となったのです。
このように、対象者のインサイトと少しズレたことをしてしまうと、せっかくのパーパスも台無しになってしまいます。みんなの共感を呼べるか、呼ばないかによって、施策の成果は大きく変わってくるのです。
広く共感を呼ぶ、ズレた打ち手にならないためにはどうすればいいか。次のページから見ていきましょう。