※本記事は株式会社マスメディアンの『advanced by massmedian』に掲載された記事を表示しています。
“体育”と“スポーツ”の違い
スポーツライターとしても活動してきた乙武さん。いよいよ今夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックを控え、「去年は、1つ大きな変化があった」と言います。それは、10月の第2月曜日の祝日の名称が“体育の日”から“スポーツの日”に変更になったこと。
乙武さんによると、インターネット上では、「名称だけ変えることになんの意味があるの?」といった意見が散見されたそうですが、「僕は(変更が)けっこうデカイと思っていて。体育とスポーツは同じだと思っている人が多いけど、むしろ真逆なもの」と唱えます。
そもそも、“体育”ができた経緯について、「ドイツが、兵隊を訓練して強化するシステムとして編み出されたもの。つまり規律を大事にしながら、上の命令を下にやらせ、体を鍛えるのが体育」と説明します。それだけに、「学生のころ『体育が嫌いだった』という人が多いのは、上から言われてやりたくないことも嫌々させられる。周りと同じようにやらないと怒られる。これが“体育嫌い”を生んでいる大きな原因」と指摘します。
対してスポーツは、語源を遡ると“余暇”“非日常を楽しむ”といった意味合いが多いのだそう。「スポーツは自分から能動的に楽しむもので、本来、みんなが楽しめるもの。日本は、その辺り(の意味)をけっこうはき違えていて、『スポーツが嫌い』と言う人は、“スポーツ”が嫌いなのではなく、“体育”が嫌いなだけ」と話します。
そして、「“スポーツの日”という名称だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックの開催を機に“体育文化”を脱して、“スポーツ文化”に移行していけたらいいなと思う」と期待を込めます。
パラリンピック選手のほうが強くなる時代!?
ハヤカワさんがパラスポーツの未来について問うと、乙武さんは「パラリンピックの競技記録が、オリンピックの競技記録を上回る時代が、妄想ではなく既に現実のものとなりつつある」と答えます。
現に、「走り幅跳びでは、マルクス・レーム(ドイツ)という義足の選手が、オリンピックで金メダルを獲得した選手の記録を上回っています。もし彼がオリンピックに出場できたら、義足の選手が金メダルを獲ってしまう可能性がかなり高い。でも(出場は)許されていない」と乙武さん。
過去には、義足のランナー、オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)が、2012年ロンドンオリンピックへの参加を認められ、「義足のランナーが、オリンピックで走って準決勝まで進出することができた、という美談になった」。
ところが、「マルクス・レーム選手が、義足で健常者の記録を超えてきたら、“オリンピックには出場できません”となった。『義足を付けていることが有利にならないと証明できていないから駄目です』と。本来、義足で走ったり、飛んだりすることが、“有利に働くと証明されたら出場してはいけません”と言うならわかるが……証明すべきは大会側なのでは」と異を唱えます。
さらには、「“健常者のほうが上でなきゃ駄目”という意識がどこかにある気がする。そういう意味では、今後、パラリンピックがどういう大会になっていくのかを考えると、おそらく“(健常者の選手よりも)義足のランナーのほうが速い”という時代がやってくる」とも。
乙武も舌を巻く“義足”の進化
義足の技術の進化も目まぐるしいようで、「今までは、片足だけでも生身の足が残っている選手のほうが速く走れていたけれど、“両足とも義足”の選手のほうが、いい記録を出せるようになってきた。自分の記録を追及したいがために、義足のほうが速く走れるなら、残った足を切ってでも義足をつけたいと思っているパラアスリートもいる」と言います。
そして乙武さんは、「絶対に、いまから議論しておいたほうがいい」と前置きし、「僕らの世代が、年を取って足腰が立たなくなるころには、競技用だけでなく日常生活用の義足も進化している。足はあるけど(思うように)動かないという人が、『これをつければ、いままで通り歩けますよ』と言われ、義足をつけたがった場合、それが倫理的にOKなのかはものすごく難しいテーマ」と提起します。
自身は、最新鋭の義足を用いて二足歩行にチャレンジする「OTOTAKE PROJECT(オトタケ・プロジェクト)」に取り組んでいることもあり、「いますぐ実用化できる段階ではないが、こうした研究とプロジェクトの積み重ねで、ゆくゆくは実用的なものが出てくると思う。人が悩めるくらいの選択肢が出せるようにがんばっていきたい」と力を込めていました。
【この記事の放送回をpodcastで聴く】
<番組概要>
番組名:マスメディアン 妄想の泉
放送日時:毎週土曜 24:30~25:00
パーソナリティ:ハヤカワ五味
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/mousou/
番組Twitter: @mousou_tfm
コンテンツパートナー記事とは
AdverTimes.編集部が注目する広告界のオウンドメディアから
読者に届けたい記事を厳選し掲載しています。