「サステナビリティ報告」と「渉外・インテリジェンス機能」
金田氏には、広告に加え、企業によるサステナビリティ情報の発信、いわゆる、「サステナビリティ報告」についても話を聞いた。社会課題解決のための取り組みに関する発信については、いまだに欧米と日本では温度差があると言われている。
金田氏はその温度差を、地域差ではなく「多種多様な文化、価値観、ステークホルダーと触れ合う“接面”をどれだけ持っているかによって、企業間の温度差が生まれる。グローバルに活躍している企業ほど“接面”も多くなるので、ステークホルダーの多様な考え方や発想に接し、ステークホルダーと対話した上で、それらを自社の取り組みやその発信に反映させるという基本動作ができている」と解説する。
「外部との“接面”を多く、かつ、広く持っている企業は、社会の変化への向き合い方が、少し違うようだ。社会の持続可能性だけでなく、自社の持続可能性を高める観点からも、変化に“乗る”のではなく、変化を“自らつくる”意識が強い」と金田氏。
企業はどのように、社会の変化を“自らつくり”、情報発信の質を高めていけばいいのだろうか。約10年間、政府渉外にも携わってきたキャリアを持つ金田氏は「『渉外・インテリジェンス機能』を強化すべき」と指摘する。
「情報発信を考えるには、発信以前の3つの段階についても考える必要がある。第1段階は、社外からの情報収集。第2段階は、収集した情報の社内発信、浸透。第3段階は、社内浸透の結果、社内で生まれた考え方や取り組みに関する情報を、社内から収集すること。そして、第4段階が、それらの情報を効果的に社外に発信すること。企業は、一般的に、第4段階の情報発信には予算措置を取り、手間をかける傾向があるが、国連などの国際機関や各国政府、そしてNGO、NPOなど外部から情報を収集する第1段階を重視してこなかったのではないか」(金田氏)。
第1の情報収集の段階には、収集活動だけなく、「渉外・インテリジェンス活動」が含まれる。
「外から眺めているだけでなく、アドボカシー(政府や市民社会への働きかけ)や議会等への健全なロビー活動などの手法で、企業が自ら“変化づくり”に関わっていくことが大切。先進的なグローバル企業は、影響力のある外部ステークホルダーに対して積極的に働きかけ、場合によってはルール策定の一員として一票投じることができるようなポジションを獲得している。渉外・インテリジェンス機能を充実させることにより、変化を先取りした取り組みに基づいた、自社の『サステナビリティ報告』ができる」と金田氏。
広告主として社会に働きかける「サステナビリティ広告」と活動主体として社会に情報発信する「サステナビリティ報告」。両者の関係について金田氏は「『サステナビリティ広告』で人々を動かすには、優れたクリエイティブだけでは不十分。『サステナビリティ報告』による誠実な情報発信があって初めて、『サステナビリティ広告』は輝きを放つ」と語った。
金田氏がSDGs特別賞の選考委員長を務める広告電通賞。応募期間としては、2020年3月2日(月)10:00~4月1日(水)17:00となっている。