20代の地獄のレッスンが今の演技につながっている
澤本:桜井さんは演技がめっちゃくちゃ上手いから。
権八:そうなんですよ。おっしゃる通りです。
桜井:いやいやいや。
澤本:お世辞言っているわけではなくて。オーディション受けることってあるんですか?
桜井:私ずっとオーディションでした(笑)ここ1、2年ですかね。オファーでお仕事をいただけるようになったのは。それまでは、ほぼほぼ全部オーディションですね。
澤本:マスターカードも?
桜井:マスターカードもオーディションです。
澤本:オーディションに行った時は勝率いい方でした?
桜井:20代前半は全然。始めてすぐの頃はもうまったくダメだったんですよ。でも、あるワークショップというか。そこの先生に習い始めてからすごく自分が変われたんですよ。それからオーディションで決まるようになりました。だからその先生にはすごく感謝しています。
澤本:そこで習ったことって、演技のヒント的なもの?
桜井:どちらかというと、内面ですかね。例えば小さい頃のトラウマだったり、大人になるにつれてできた癖みたいなものを全部一回崩すっていう。そこで嘘をついた芝居をしようもんなら、もうとてつもなく色々なことをさせられるんですけど。すごく面白かったですね。
澤本:嘘がバレるんだ。
桜井:はい。そこからは地獄です。「クラウン(道化師)」っていうものがあって、先生を含めそこに習いに来ている生徒10人くらいが部屋の隅に一列で並んでいるところに、ひとりで入ってきて、全員が笑うまで終わらないっていう。芸人さんみたいにネタを持っているわけでもないし、そういう特技もないので、地獄でした。いかに恥ずかしいとか、どう見られるかっていう感覚を自分に問えるかっていう。
澤本:結構終わらないこともあったの?
桜井:ありますね。恥ずかしいとか、こう見られたいというスイッチが入っているときは誰も笑わないんですけど。自分も面白くなって、本当にもういいやってなった瞬間はちょっと何かしただけで、笑ってくれた。面白かったですね。
中村:『ガキ使』みたいな感じでネタが面白いというよりか、このタイミングで素が出ちゃうというか。
桜井:笑わせようとしなきゃいけないんですよ。何もしないことは許されなくて、話し相手もいないので本当にひとり。でもそこに通ってから、オーデションで決まることが増えましたね。
澤本:そういうきっかけなんだ。
桜井:そうですね。大きいと思います。
権八:稽古のことを「クラウン」というんですか?
桜井:そういう稽古があるらしいんですよ。私もよく知らなかったんですけど。「掃除機になってみて」とか、「ミキサーになってみて」とか。そういう色々なやり方があるんですけど。
中村:それは鍛えられますね。
権八:そういうのをやると見違えるように演技が上達すると。
澤本:掃除機になれってなかなか難しいよね。
桜井:でも、「ふー(息を吸う)」とかやろうもんなら……
中村:それは違うんだ。
桜井:「こういうものを吸った時にはどう思うか」という掃除機側の気持ちみたいなのを表現するんです。象とかも鼻を揺らすことをやっててもだめ。
権八:一生懸命、身振り手振りやってもね。
桜井:「気持ちを体現しろ」ということで、なかなか複雑なんですけど。
中村:正解は、どっちかというと形態模写じゃないんだ。「今日も押入れの中に入れられちゃった。早くスイッチ入れてくれないかな……あーきたきた」っていう感じ?
桜井:そっちの方向性です。奥の奥を考えろという。だから題材は分かりやすく掃除機とか、物だったりするんですけど。このようなことをひたすらやる日々を続けていたんです。
権八:すごい。そんなハードな経験が今の桜井さんを支えているのか。