ネガティブ・バイブスの拡散は時間の無駄
非常事態は、芸術家だけでなく何らかのビジネスを行っている人が、自らの商品・サービスが「人のためになり、なくてはならないもので、人を救う力がある」ということを示す絶好の機会でもある。
経済的な負担が生じてしまう点を考慮しても、世の中の状況や判断に悪態をつくのは時間の無駄だ。何も生み出さないだけでなく、ネガティブ・バイブスを撒き散らし、人々に形の見えない不安を植え付けてカオスにさせていくだけである。
芸術は、人の枯渇した心を潤し、死にかかった感覚を生き返らせることができる力を持っている。人に生きる望みを持たせるきっかけをつくることもできる。だからこそいいバイブスを発信し、ひとときだったとしても受け手に「快」を感じてもらうことが重要である。
きっと、この鬱々とした時期に、芸術が今までは興味を持っていなかった人の心をうち、未来のファンを生むこともあるだろう。従来からのファンにとっても、不安を抱える中でいつも以上に心に響き、記憶に残る経験になるかもしれない。その感動とストーリーがブランド力をより強固にするのだ。
今できることをスマートに行動に移して
このように芸術の火を絶やさないようにする努力や、芸術を求める人たちに可能な方法で提供する力こそ、ブランドのブランドたる底力と安定感、信用につながっていく。さらに、その適切な方法を模索することは、芸術のみならず様々な分野(個人・団体・企業を問わず)で求められる、ブランドを守るための危機管理対策でもあると思う。
最後にメトロポリタンオペラ General Manager のPeter Gelb氏からのメッセージ動画をご紹介しよう。
以下意訳だが、このようなメッセージを伝えている。
「今は、メトロポリタンオペラ、NYの街、そしてコロナウイルスの影響に苦しむ全世界の人にとって厳しい日々です。私たちのステージは休演中ですが、私たちはオペラ愛とファンの皆様への献身の精神に満ちており、この困難な時期にMETのウェブサイト上で過去のパフォーマンスを提供することで、あなたを満足させたいと思っています。
(中略)
この先困難な週が続く間、METのステージ、そしてNYのすべてのステージは明かりを落とします、我々はこの状況が良くなり次第すぐに、あなたをオペラハウスにお迎えできることを楽しみにしています。」
非常時は、いつも通りのことなどできるはずもなければ誰も求めない。だけれど、企業・ブランドは未来のために、今世の中のためにできることを、今できる方法で実行する力強さこそが大切だ。それが人々に勇気を与える。
そして多くを語らず、押しつけず、スマートに行動に移す。まさに世阿弥の「秘すれば花なり 秘せずは花なるべからず」(『風姿花伝』から)である。