新型コロナウイルスと戦う医療活動をサポートするアクション
休校要請に対して消費者向けのサービスを無料で提供するような活動は、短期的なシナリオに対する消費者の不都合に向けた企業のアクションですが、いまだに新型コロナウイルスに対する医療が確立されていない状況においては、医療活動に対しての直接的な援助が短期的には有効なアクションといえるでしょう。
この医療サポートも当初はアリババグループをはじめとした中国のIT企業がサポートを表明したのに続いて、ラグジュアリーブランドを束ねるLVMHは230万ドルを中国赤十字に寄付していました。しかしながら感染が拡大するにつれて、さらにLVMHは香水工場で手指消毒用水性アルコールジェルを生産し、フランスの保健当局に無料で提供するとも発表しました。
日本でもソフトバンクグループの孫会長は、Twitterで当初「検査キット」を配布する案を「マスク100万枚寄付」に変えて宣言しています。
このようなアクションは、企業としての寄付活動ですので、基本的に消費者が直接的に企業からのメッセージを受け取るというよりは、企業のアクションをニュースや報道で知ることになります。初期の活動ではそのようなアクションが多かったのですが、やや長期化してくると、企業から消費者や一般に向けてのマーケティング・コミュニケーションとして発信しているケースもみられるようになりました。
コカ・コーラ・フィリピンは、3月20日に自らのFacebookで、広告をすべて休止し、自分たちの1億5千万ペソの広告費用をすべて医療従事者の防疫用品と、この感染で被害を受けた家族への食糧配給に引き当てるという宣言を出しています。
またブラジルのマクドナルドは、同じく3月20日に自社のソーシャルアカウントにおいて、離れてデザインされたマクドナルドのゴールデンアーチを掲載することで、新型コロナウイルス対策の一部である「社会的に距離を取ること」を啓蒙するというアクションを取っています。
新型コロナウイルス対策の医療活動を支援する活動は、直接的消費者の生活の改善を目指すものではないので、ニュースとしての意味はもちろん高いのですが、報道はされたとしても一度きりで今後のアップデートがあまり期待できません。その成果は、実際に企業が出すものではないからです。
しかしながら最近は、LVMHのように、感染拡大に応じた危機の変化によって、そのサポートの内容もより実質的に消費者の不安が解消されていく方向にシフトしています。これはこのシナリオが単なる地震などの一時的な災害ではなく、継続的に変化しうるものだからこそ、柔軟かつ継続的なサポートが必要になるということを意味しています。その意味でこのコロナウイルス対策の企業のアクションは、事態の根本的な改善を目指すための地道な支援活動に合わせて、それが改善方向に向かっていることを示唆することで消費者の不安を軽減することを目指したコミュニケーション戦略も必要になってきます。
危機で試されるイノベーション能力
新型コロナウイルスによる危機があらためて世に問うているのは、「ウイルス感染」という非常に現代的な社会課題について、どのような解決策や新しい機会を描くことができるか、という面があります。
アリババグループはこのコロナウイルス感染に関する危機に関して、3月19日に自社のアリババクラウドを世界の医療関係者向けのアプリケーションとして「DingTalk国際医療専門家コミュニケーション・プラットフォーム(Ding Talk’s International Medical Expert Communication Platform)」を無料で提供することを発表しました。
これは世界11か国語をAIによってリアル翻訳できるビデオ会議であるDing Talkをもとに開発されたもので、中国ではすでにコロナウイルス危機において1億2千万人の学生向けにオンライン授業を実施したプラットフォームです。アリババクラウドは、この新しいプラットフォームにおいて「流行予測ソリューション(Epidemic Prediction Solution)」、「CT画像解析ソリューション(CT Image Analytics Solution)」、「コロナウイルス診断向けゲノム解析ソリューション(Genome Sequencing for Coronavirus Diagnostic Solution)」の3つの高度に専門的なツールを提供するそうです。
このような大規模な対応は別としても、今後重篤患者が増えることで医療機関において大幅に不足が予想される人工呼吸器の製造について、米の自動車メーカーであるGMがVentec Life Systemsと提携してすすめている旨を発表しています。独の自動車メーカーフォルクスワーゲンも、3Dプリンタによる人工呼吸器を製造する専門部署を設置したと伝えています。
日本の国立病院機構新潟病院の医師である石北直之氏は、人工呼吸器の3Dプリンタのデータを無償提供することを発表し、広島大学、インド工科大学、UCLAが共同で進めているプロジェクトとなっているようです。
このような非常に専門性が高いイノベーションが、このような状況で信じられないスピード感でもって、さらに国際的に展開する姿は、これによって新しい機会が生まれることに期待をせずにはいられません。