長期シナリオに対するブランドのコミュニケーションはどう変わる?
短期的に、いかにこの新型コロナウイルス問題を解決するか、という点において人類が知性を集結させ、飛躍的なスピードで病気自体の科学的な問題が解決することは非常に喜ばしい限りです。このような可能性をもちろん信じる一方で、社会的なより人間的な、経済的な問題というのは簡単には解決しないかもしれません。
人々の多くは、新型コロナウイルス感染が一時的な問題として終息することを期待していますが、ウイルスに対する危機が一過性でなく長期的なシナリオになると、問題はより人間的な問題に変わっていきます。つまり、新型コロナウイルスによって起こされる直接的な病気ではなく、その状況が強いる精神的ストレスや、それが長引くとなるとこの状況が負のスパイラルを起こして経済的な問題が重くのしかかってくるからです。
その意味で、これからブランドのアクションでますます必要とされるのは、これまで企業のアクションでもみられていたような「緊急事態モード」のような緊張感の高いコミュニケーションではなく、よりポジティブで状況を前向きにコントロールしていく姿勢だと思われます。それは単純な「ケ・セラ・セラ」的楽観主義ではなく、より本質的な人間主義的なコミュニケーションです。
直近では米のクリエイティブ・エージェンシーであるワイデン・アンド・ケネディが、自動車メーカーのフォードの広告を急遽差し替えて出稿したコピーのみのテレビスポット「Built for Right Now(今すぐのためにつくられた)」と「Built to Lend a Hand(手を貸すためにつくられた)」で、100年以上続く企業の前向きな姿勢をメッセージしています。
またワイデンはそれに続いてナイキでも、「Play inside. Play for the World.(屋内でプレイせよ。世界のためにプレイせよ。)」というソーシャルアカウントでの投稿を開始し、ナイキが1500万ドルのコロナウイルス対策の寄付をすることと、アプリで配信している有料トレーニングコンテンツを無償で提供することを発表しています。
同じメッセージはマイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズ、クリスチャーノ・ロナウドのアカウントでも発信されています。(なぜかナイキのメッセージは、日本ではこのPlay Insideではなく、Play Todayに変わっています。おそらくジムなど閉鎖された空間で運動することを避けてほしい、と意識したのかもしれません)。
今後、状況が好転するか悪化するか、または曖昧な状態が継続するにせよ、これからのブランドのコミュニケーションにおいては一貫した信念が求められると同時に、状況に柔軟に合わせ、人々の人間的な面を理解したものが重要になるでしょう。このウイルスの課題はその意味で新しい試練とイノベーションをもたらすことになると言えます。