【前回コラム】「クリエイティブの世界もこんなに違う!?日本とグローバルの働き方の違いを徹底分析」はこちら
どうも、こんにちは。クリエイティブスタジオ「Death of Bad」の曽原剛です。
おかげさまで本コラムも3回目を迎えました。前回は、広告クリエイティブビジネスにおける日本と米国・グローバルの働き方の違いについて、「コンセプトとコンテクスト」「仕事のスピード感」「ジェネラリストかスペシャリストか」の3つの観点からお話しました。
今回は前回同様、働き方をメインに「報酬体系の違い」「キャリアの選択肢」の2つを取り上げたいと思います。
今回のテーマは、皆さんが将来、私と同じグローバルな世界で広告クリエイティブの職に就くことになったとき、おそらく最初に突き当たる“壁”になるでしょう。本コラムが少しでも皆さんのキャリア形成の役に立てれば幸いです。
「フィー」?「コミッション」?変わりゆく報酬体系
かつては、「日本のエージェンシーはコミッション制、米国・グローバルはフィー制」という明確な違いがありましたが、それも過去のこと。日本でも、マスメディアの扱いを前提としたコミッションビジネスからの脱却が、特に大手エージェンシーの間では最重要課題として語られ始めています。他にも、レベニューシェアやストックシェア、IPのパーセンテージシェアまで、さまざまな報酬体系が検討・試行・実施されています。
さらに、報酬体系に関わるもうひとつの重要な要素として、「リテイナーベース」と「プロジェクトベース」があります。
両社の違いを説明しましょう。エージェンシーとクライアントの契約関係において、アイデアの立案、クリエイティブの制作から成果の分析・報告までといった業務を継続的な年間・複数年契約で行い、マンスリー・フィーとして、1カ月単位の固定料金が支払われるのが「リテイナーべース」。それに対し、プロジェクトごとの短期の契約で、その仕事量と、それにかかる時間をもとにフィーが換算されるが、「プロジェクトベース」となります。
米国では、メディア環境やマーケティング部門のあり方の変化、そしてビジネス全体のスピードアップに伴い、かつてのようなAOR*にもとづくリテイナーベースのフィービジネスも大幅に減少し、プロジェクトベースの報酬体系が主流となってきています。
この変化は一業種一社制かマルチクライアント制か、ということにも影響しています。一昔前までは、欧米のエージェンシーのほとんどが、一業種一社制(ひとつのエージェンシーが2つ以上の競合他社の広告を担当しないというルール)を敷いていましたが、最近の米国では、専門性高いエージェンシーがプロジェクトベースで業務を行うにあたっては、複数のクライアントに対応していることが多くなっています。
そういう意味では、かつての米国のように、競合プレゼンでエージェンシーとクライアントの関係が0か100かに決まってしまうのでなく、クライアントがブランドや商品ごと、またはプロジェクトごとにさまざまなエージェンシーを使い分けてきた旧来の日本のやり方に近づいたとも言えるかもしれません。
しかし、それでも、報酬体系において依然変わらず存在する日本と米国・グローバルの違いとして、後者では「契約」と「適正なフィー」ということが、仕事をし始める時にしっかり議論され、合意されるという点です。
短期間の仕事であろうとも、どんな内容でどのくらいの期間に対して、どのような業務を提供するかを取り決めたSOW(スコープオブワーク)にもとづき、しっかりとフィーの金額に両者が合意したのちに仕事をし始めるというのが、契約社会の米国・グローバル社会では当たり前のことになっています。
少し余談にはなりますが、フィーに関して思うことをひとつ。メディアの扱いによるコミッションが主流で、クリエイティブや戦略策定といったそれ以外のサービスは、その「おまけ」として提供されてきた(されている)日本では、適正な「フィー」への理解がなかなか浸透せずに、大きな悩みのタネとなっているかと思います。
長い年月をかけて築かれた商習慣を、ひとつの理由で語ることはできないのですが、ひょっとしたら、日本人がもつ「見えないものへお金を支払う抵抗感」ということが影響しているのではと考えたりします。この業界に限らず、弁護士やカウンセラーといった、「目に見えにくいアイデアやソリューションを提供する」仕事に関するフィーが他国に比べて低いという話を聞き、「なるほどな」とえらく腑に落ちたことがありました。
クリエイティブがお金の話をすることは、なぜだか敬遠されがちですが、クリエイティブを単なる「おまけ」ではなく、ビジネスの中心としてより発展させていくには、お金の話を活発に行うことがとても大事なことだと思います。
*AOR…「agency of record」、指名代理店のこと。複数の広告会社と取引している大規模広告主の場合、メディアの購入を効率化し管理を容易にするため、媒体別にメディア・バイイングを特定の広告会社に一本化させることが多い。