クリエイティブとお金の話。 一人ひとりに合った働き方と4つの選択肢

4つのキャリアプラン あなたに合う働き方は?

コピーライターなり、アートディレクターなり、クリエイティブディレクターなり、あなたがそのキャリアを追求して働く場所を考えている場合、現在、米国では大きく4つの選択肢があなたには存在します。

 A)クライアントサイドのインハウスクリエイティブ部門で働く
 B)大きなエージェンシーで働く
 C)専門性に特化した小・中規模のクリエイティブブティックで働く
 D)フリーランスとして働く

まず、A)について説明しましょう。GAFAを中心としたテックカンパニーはじめ、スタートアップや既存のビッグブランドにおいても、クライアント社内にクリエイティブ部門をつくり、拡大する傾向にあります。それは日本も米国・グローバルも変わりません。

他部門と円滑に協働し、多様なメディアに合わせたアウトプットを効率良くつくり出していくための必然的な動きだと言えるでしょう。そこには、かつて大きなエージェンシーで活躍した人材が転職してきていたり、元々社内の別のデザイングループにいた者が移籍してきていたりするなど、さまざまな背景を持った人々が肩を並べて仕事しています。

インハウスの長所は、そのブランドの発展のために考えられるアウトプットに一貫性があることです。けれどもその一方で、「ブランドのコンセプトに忠実で一貫性はあるが、新鮮味がない、驚きがない」という声が聞かれるのも事実でしょう。

次にB)です。WPP、オムニコム、ピュブリシス、IPGといったグローバルネットワークに属するメガエージェンシーに属することは非常に魅力的です。また、ワイデン&ケネディのような独立系エージェンシーでキャリアを積むことも、自身の成長につながるでしょう。

ただ、前述の通り、大きなリテイナーベースからプロジェクトベースのビジネスに移行したこと、そしてクライアントによるクリエイティブのインハウス化の傾向により、その勢いを失いつつあるのは否めません。

メガエージェンシーはいま、ネットワーク内でのエージェンシーの統合や重複人員の整理など、選択と集中を加速して、生き残りにしのぎを削っています。もちろん、それでもなお、業界をリードする優れたクリエイティブの多くがこういった大きなエージェンシーに属していますし、話題にのぼる大きなキャンペーンが生み出されています。

例えば、今年2月に開催された米プロフットボールリーグ(NFL)の優勝決定戦「スーパーボール」で放映されたテレビCMのほぼすべても、こういった大きなエージェンシーにより制作されたものでした。

続いてC)。専門性に特化した小・中規模のエージェンシー・ブティックの種類と数は、枚挙に暇がありません。例えば、デジタルやUX/UIを強みにしたエージェンシー、インフルエンサーに特化したエージェンシー、PRやメディアから発展したエージェンシー、米国内のヒスパニックマーケットを専門としたエージェンシー、映画のプロモーションを長年手掛けてきたエージェンシー、芸能・タレントマネジメントから進化したエージェンシーなど、数多くあります。

そして、ここ数年、こうした小・中規模のエージェンシー・ブティックに変化が起きています。従来は専門外だったエリアへの拡大や、クリエイティブ部門の拡張により、より規模の大きいプロジェクトにも参画するようになったのです。これもひとえに、一業種一社制の緩和により、ビッグブランドのさまざまなプロジェクトがこれらの会社にも流れるようになったからと言えます。

最後にD)です。ある一定の成果とコネクションを築けば、完全独立のフリーランスということも大きな選択肢のひとつです。この業界に限らず、米国でのフリーランス率は非常に高く、A)のようなインハウスクリエイティブを補完する役割や、B)やC)のようなエージェンシーの不足部分を補う形など、受注=プロジェクトへの関わり方はさまざまです。

多くの場合が、数週間から数カ月のプロジェクトを受注し、それが終了次第、次の「gig(ギグ)=プロジェクト」へと移っていきます。仕事をしたくない時は長い休みを取ることもできるし、気に入ったポジションがあればフルタイムへと転向することも可能なので、まさに自由な働き方です。しかし、個人の人気商売であるがゆえ、未来への安定的な保証はないという側面も当然ついてまわります。

ここまで、4つそれぞれのメリット・デメリットをお話してきましたが、もちろん日本でも、同様の働き方やポジションは存在します。

しかし、日本と異なり米国では、例えば上記4つのタイプのキャリアに、どちらが上か下かといったヒエラルキーがそれほど感じられません。私の周りでも、この間まではエージェンシーにいたと思ったら、あるブランドのインハウスに転職。そしてつい先日にはフリーランスになったというような話は日常茶飯事です。

これは、転職が当たり前の社会だからこそ、多様な働き方の選択肢をいつでも自分の意思で選ぶことができるのだと思います。日本も、いずれ終身雇用や一斉就職が当たり前ではなくなったときに、働き方のダイバーシティが進むことでしょう。

ちなみに、米国全体のフリーランス比率は50%近く。日本でも最近上昇傾向で17%ほど。ただ、江戸時代の日本は、フリーランス・個人事業主が半数以上だったとか。

人生100年時代に向けて、働き方のダイバーシティも、必要不可欠な世の中へ。

さて、今回はこの辺で。次回コラムは昨今、さまざまな場面で見聞きするようになった「Brand Purpose(ブランドパーパス)」に関して、ロサンゼルスの現場よりお伝えしていきたいと思います。それでは、また。

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曽原 剛(Death of Bad)
曽原 剛(Death of Bad)

1999年博報堂入社。コピーライターとして7年間在籍したのち、2006年にロサンゼルスのTBWAに移籍。Appleや日産など数多くの有名企業のクリエイティブを手掛けた。その後、2014年に日本に帰国し、J. Walter Thompson Japan のエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターに就任。2018年には、ロサンゼルスのTBWA\Media Arts Lab時代の同僚、ジョン・ランカリック氏と共同でクリエイティブスタジオ「Death of Bad」を立ち上げた。

曽原 剛(Death of Bad)

1999年博報堂入社。コピーライターとして7年間在籍したのち、2006年にロサンゼルスのTBWAに移籍。Appleや日産など数多くの有名企業のクリエイティブを手掛けた。その後、2014年に日本に帰国し、J. Walter Thompson Japan のエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターに就任。2018年には、ロサンゼルスのTBWA\Media Arts Lab時代の同僚、ジョン・ランカリック氏と共同でクリエイティブスタジオ「Death of Bad」を立ち上げた。

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「ロサンゼルスの現場から。~日本語しかできなかったコピーライターが、気付いたら、LAでクリエイティブスタジオを設立していた話~」バックナンバー

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