メディア閉鎖も考えた成長期
ところが2017年に入ると、企業が急成長を遂げたことで生じた歪みが徐々に表に出始めたという。
「店舗数やブランド数、社員が一気に増えるなかで、『今後どんな企業を目指していくのか』『どんな社会的意義を見出すべきか』などを考えるフェーズに移っていた。しかも菓子はトレンドに波がある業界。商品ブランドに依存するのではなく、企業の輪郭をしっかり描いていく、コーポレートブランディングが必要な時期に差しかかりました」。
急成長による企業ステージの変化とともに、2017年には投資ファンドへの株式譲渡も行われた。経営体制も刷新されて“第二の創業”を迎えるなか、様々な要因が重なったことでオウンドメディアとしての方向転換が迫られていると感じていたという。
折しも、2017年当時は他社のオウンドメディアの閉鎖が目立った時期。「私たちも、体制変更や会社のフェーズが変わったことで、『伝えたいことは何か』とコンテンツに悩んでいた時期。一時期は閉鎖することも考えた」と苦しい時期を振り返る。
結果として「企業規模が大きくなったタイミングだからこそ生まれるコンテンツがある」と考え、オウンドメディアの継続を決定。事業が引き続き急拡大するなか、「一本の記事で社内が同じ方向を向くことができるように」という社内ブランディング効果への期待も込め、インハウスエディター中心の制作ではなく広報室が運用を引き継ぎ、外部エディターとともに発信を続けている。
「共創期」のコンテンツ設計
企業のフェーズとして、現在は“共創期”と位置づけている(図2)。2019年10月からは「THE BAKE MAGAZINE」のコンセプトを“オープンイノベーション”に設定。「保守的な業界を縦にも横にもつなぐコンテンツづくり、『お菓子を、進化させる。』というミッションステートメントを体現したい」という方針のもと、企業として“社会に価値を提供する”フェーズに入ったと考えている。
オウンドメディアのコンテンツも、プレスリリースには書ききれないような、商品やブランドが生まれた裏側のストーリーなどを多く取り上げるようになった。「プレスリリースの内容は事実ベースが多くなってしまう。原材料の調達先や他社とのコラボレーション、デザインの選定、海外ビジネスの展開などに開発者や担当者がどのようなこだわりや思いを持っていて、どのような人々の協力のもと実現しているのかをフォローアップする意味合いもあります」。
自社だけでなく、菓子業界やスタートアップの可能性が広がるような発想を持ち込むことも意識している。例えば“無店舗ビジネス”といったフードイノベーションや、テクノロジーを活用して完全食や保存食といった分野の開拓に取り組む企業を取り上げるなど、業界全体の活性化を視野に入れた情報発信に気を配る。
企業成長と並走するメディアに
「オウンドメディアの運営に行き詰まったときに立ち返る原点になったのが、“可能性を広げる”こと。それはオウンドメディアも企業広報も変わらない。主語が自社や業界、あるいは社会全体でも、その可能性を広げることを念頭に置けば、迷った際にも打開できるのではないか」と投げかける。
企業と並走する存在として、成長ステージに合わせてオウンドメディアも変化を遂げてきた。「今後はコラボレーション先の企業とともに、リアルイベントを開催できたら。菓子業界やスタートアップを活性化させ、オープンイノベーションを切り口に体験の場を提供できるようなオウンドメディアとして育てていきたい」と語った。
BAKE 広報室 室長
北村 萌(きたむら・もえ)氏
海外発のスイーツブランドの広報や事業会社のマーケティングなどを経て、2016年3月BAKEに入社。広報室を立ち上げる。「PRESS BUTTER SAND」「BAKE CHEESE TART」など8ブランドの国内外PRと新ブランドローンチに関するPR活動全般を担当。