坂井直樹×藤井保文×陳暁夏代 中国の起業家が見据える未来は?

やっていいことを決めるか、やってはいけないことを決めるか

坂井:僕の中国人の友達で、2019年に電子たばこの会社を買収した元漫画家がいるんだけど、買収した次の月にはもう3億円利益。同年の10月には1カ月の利益を25億円まで伸ばしてた。でも国の方針が変わって、電子たばこの規制がかかったら11月は利益ゼロ。ものすごく急です。

藤井:そのスピード感が僕は好きですけどね。アメリカと中国は、やっちゃいけないことだけ決めておいて、あとは勝手にやりなさいというブラックリスト方式。一方で日本は、やっていいことを決めるホワイトリスト方式なので自由度がない。例えばセグウェイのような新しい乗り物が出て来たら「道路交通法で決めてないので乗っちゃダメです」というのが日本で、「一旦どうぞ」っていうのが中国。後で、危なくなってくると止めます。

坂井:言い方を変えると、フレキシブルだよね。KOLを動かす会社をやっていた友達もいて、700人ぐらいのKOLをマネジメントしていたんだけれど、「ファンの数え方に不正がある」と突っ込まれて、こちらも一瞬でなくなってしまった。

陳暁:中国の創業・廃業は、日本とはわけが違うんですよね。例えば日本はベンチャー起業などが盛んですが中国ではいちいち「独立した」とか言いません。わかりやすい例でいうと、深圳でカメラを売ってた人たちは今、化粧品を売ってます。電気街だったのに、問屋が化粧品ビルになっている。でも中にいる人は同じです。14億総問屋精神なんですよね。それがアプリでライブ配信をしている人もいれば、不動産をする人もいる。稼ぎ方はそれぞれですが何かに依存しているわけではなく、速い社会の成長に合わせて変化に臨機応変な「自営」の精神で生きています。

坂井:要するに、儲かる方を選ぶということ?

陳暁:そうなんです。その時一番儲かるモノを売ればいい。ビジネスモデルとか、トレンドとかではなく、純粋に粗利を稼ぐ。100元売って200元になるのは今これだからやろうという感覚です。一攫千金で上がっていく人は中小企業になっていくし、儲け話から乖離した視座を持ってる人たちがテンセントやアリババみたいな巨大な企業を作るので、何年先の未来を見ているかで、中国の起業家のスキルは変わってきますね。

坂井:僕の友人は、ほとんど目の前しか見てない。

陳暁:そういう人が多いと思います。それでお金持ちになれるのが今の中国だからいいんです。儲けたお金で不動産を買って、それで一生暮らせる。ただ長い目で見るとこれからの中国では変化が起きるかもしれませんね。

藤井:テンセントの人たちと話すと、すごく高潔な感じがしたんです。社会貢献の話をよくされて、自国の歴史も文化も好きなので、国の状況をいかに良くしていくかを考えている。そういう考えを持つ人たちの中に、優秀な人材がいるんだ、という風に僕の目からは見えていたのですが、それはほんの一握りの人たちの考え方だとも言われました。新しい事業をやってお金稼ぎしている人たちの9割は、社会貢献ではなく、日銭を稼いだり、生き残るために必死だったりするだけだと。思い返せばシェアリング自転車の会社も一時期は70社ぐらい出て来ましたが、ほとんどなくなりました。

陳暁:自分の代で財をどれだけ稼げるかっていうのを美徳として教育されていますからね。自分の家族が幸せならそれでいいし、稼いだ人が正義だという思想が今もまだ残っています。

坂井:子どもに対する教育なんかはどうですか?

藤井:教育とテクノロジーを組み合わせたエドテック関連のニュースは出てきます。ただ実際ヒアリングしてみると、上海のお母さんたちはアプリやサービスを取り入れてはいるものの、学校と塾の宿題がたくさんあるので、とにかく宿題をやらせているような感じでした。

陳暁:私の感覚で言うと、教育のデジタル化というテーマのくくりがそもそも良くないなと思っていて。中国は、学校も会社も病院もあらゆる産業でデジタル化が進んでいるんです。例えば、オンライン診療や薬の自販機、教育ではオンライン家庭教師や授業のWEB中継など。日本と大きく考え方が違うので、アナログからデジタルという移行ではなく、生活の利便性や選択肢としてデジタルが自然と溶け込んでいる。

坂井:中国では、今、何が儲かりそうなんだろう。

藤井:質問とは逆の話になりますけど、BtoBビジネスが来る来ると言われながら2019年は来ませんでした。アメリカはIBMやセールスフォースなど、強いBtoBのビジネスがあるけれど、中国はその領域が未成熟です。アリババが提供しているBtoBサービスを使っている人に話を聞くと、Googleなどを使っている経験からすると細かいところで気が利かない、と。一方でBtoC向けのサービスはすごく気が利く。この差は何なのか。

BtoCは、利便性を上げれば売上に直結するけれど、BtoB向けの社内管理システムなどは決裁者のメリットになるかが重要で、かつ利便性が良くてもそこにダイレクトに響かないため、売り上げに直結する感覚が薄い。だから差が出てしまっているのではないか、というのが僕の見立てです。

陳暁:確かに。だからみんな仕事でも WeChatを延々と使っていて、BtoB向けのツールが導入されない。※

※コロナウイルス以降、現在この領域についても変化が起き、導入促進され始めている

次ページ 「スタートアップは北京がアツい、深圳は日本でいう秋葉原?」へ続く

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坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)
坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

坂井直樹(コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役)

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、68年Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年オリンパス「O-Product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧 ウォーターデザインスコープ)を設立。05年au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08年~13年慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

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