新しい事業を興すならアフリカ、東南アジアで
坂井:次に世界を席巻しそうな中国のイノベーション、ビジネスモデルは何だろう?
陳暁:ライブ配信とか、課金のシステムとかは、中国が今一番うまい。
藤井:そうした仕組みが東南アジアやアフリカでどう受け入れられていくのか、が僕は気になっています。グローバルで見ると、Amazon対アリババの領土合戦のようで、日本はAmazon、インドもAmazonとあと現地のもの。一方、東南アジアなんかは、アリババ傘下のラザダが殆ど席巻している状態です。中国から見て後進国と言える場所には、やっぱり中国が入って行ってます。アフリカにも結構注力しているようですが、それらの国がどこまで中国を受け入れるか興味があります。
坂井:5Gとスマートフォンから通信の歴史が始まる国へのアプローチだ。
藤井:そうです。「今、中国で新しいことを始めるとしたら何?」と中国人の起業家に聞いたら、「中国なんかで始めないよ」と言われました。東南アジアとかアフリカのゼロから作れるところにいってやるに決まってるじゃないかと。
陳暁:アフリカに行った時も、ファーウェイの看板を目にしましたよ。
藤井:中国の起業家は、結構、国の言いなりなのかな、と思っていたのですが、アリババに10年間勤めて最終的にアリペイの責任者についた人に話を聞いたら、「国もユーザーや企業と変わらない。国は基本的には、デジタルを推進したいと考えているけれど、具体的にどうすればいいかわかっていない。そこで、企業が国にサービスを提供するという形だ」と言っていました。なので「国のためにやりたいことがある。定期的に報告するのでできれば一緒にやっていきたい」という具合に持って行くと、案外、自分たちのやりたいようにさせてもらえるそうです。
坂井:その「報告」が大事なんだろうね。僕らは、2019年、マカオの西側のホンジンというところに会社を作ったんですよ。経済特区で1年間家賃はタダ。審査を受けに行ったら全員20代の役人が出て来ました。20代が僕のような70代のおやじを審査するっていう構図はなかなか面白い。中国では、若い人が決裁権持ってるんだね。深圳なんかには、60歳越えた人はほとんどいないでしょ。
陳暁:深圳の平均年齢は34。どうして平均年齢が若いのか?と地元の人に聞いたら、誰が一番納品が早いか、ECサイトのお客様対応が早いかというスピードの勝負が全ての街なので、デジタルネイティブかつ、体力のある若者しかこの街に適応できないと言われて、なるほどととても腑に落ちましたね。
坂井:起業について、日中の違いはどうですか。
陳暁:江戸時代の日本を、今の中国に当てはめて考えると、誰もが商いとして醬油を売ったり、米売ったり、傘や下駄を売ったりしている時代なんです、今の中国は。だから起業したといちいち発表しないし、副業とか本業とかいう概念もない。昼間、会社に行ってる人が、夜はスマホでライブ配信して稼ぐという国だから、根本的に日本とは違うと思います。大人世代はバブル期に不動産で儲けたので生涯それで安泰。あとは、株やったりして、40代以降は老後を暮らしている感覚です。25~35歳が現役ですね。
藤井:日本との違いや、中国の環境をちゃんと理解することは重要ですが、そこにビジネスのヒントがある、今すぐ使えるネタがあると考えるのは、少し短絡的かなと思っています。環境があまりにも違うので、相当、抽象度を上げてものを見て行くか、グローバルで市場を捉えないと。
陳暁:世界中の先端事例を知識として持ってるか持っていないかで結構変わってきます。中国にこだわってる時点で成功しないと思う。
坂井:中国市場で何かやるっていうのは、結構大変だろうね。
陳暁:環境があまりにも違うので大変だと思います。それを知ろうとせずに日本のモデルを当てはめることが一番危険ですね。