Holisticなブランド体験が情緒的なつながりをつくる! 奥谷さんと考えるエンゲージメントの本質

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少子高齢、人口減少など、いま日本という国の形が足元から大きく変容しつつあります。「ポスト2020」のマーケティング戦略は、どうあるべきなのか。チーターデジタルの加藤希尊氏が最前線で考え、行動する実務家たちとの対談を通じて考察、解説していきます。今回は「エンゲージメント」をテーマに奥谷孝司氏に話を聞きに行きます(本文中・敬称略)。

左)顧客時間 共同CEO 奥谷孝司氏
良品計画で店舗、商品開発、マーケティングを経験し、2015年よりオイシックスで執行役員とパラレルキャリアを実践。2018年、顧客時間創業。
右)チーターデジタル副社長 兼 CMO 加藤希尊氏
WPPグループ、セールスフォース・ドットコムを経て2019年11月より現職。2014年にマーケターのネットワークである「JAPAN CMO CLUB」を設立。

企業側が抱きがちな 顧客エンゲージメントの幻想

加藤:世界的に見ても新規顧客を獲得し続ける従来のマーケティングが、既存顧客を重視したアプローチへと変化していると感じています。奥谷さんは海外カンファレンスにも積極的に参加をし、最先端の知見をお持ちです。最近、気になる潮流はありますか。

奥谷:今年の「CES」、「NRF Retail’sBig Show」に共通した話題はデータプライバシーの問題。Cookieの取得が難しくなるなか、いかにして企業が消費者からデータを預けてもらえるだけの信頼を築けるかが大きなテーマになっていると感じます。

加藤:私たちは趣味・嗜好や購入意向など、顧客の意図によって提供される0 Partyデータの活用を推奨しています。その取得に際しては、企業との間に等価の価値交換があることが前提と考えますが、それは経済的な価値にとどまらないと考えています。

奥谷:信頼とは情緒的なつながりですからね。その点でいうと今年に入り、頻繁に耳にするようになったHolistic Experienceという言葉にデータの問題を考えるヒントがあるかもしれません。

近年、環境問題に対する姿勢など経済的価値だけでなく、その企業の社会に対する姿勢、社会的価値まで含めて、シビアに見られるようになっています。そこまでを含んだHolisticなブランド体験を提供できる企業でないと、選ばれもしなければ、信頼もされない。当然データも預けてはもらえません。データプライバシーとHolistic Experienceの関係性は、注目すべきかもしれません。

加藤:Holistic Experienceを提供するには、顧客が自分たちのブランドのどこに価値を見出しているのかを把握する必要がありますね。それを理解したうえで、価値提供のためにブランド資源を集中投下する。

奥谷:でも、これがなかなか難しい。

加藤:私たちがエモーショナルロイヤルティと呼ぶ、顧客がロイヤル化したきっかけを調べていくと、企業が想定していない結果があがってくることが多くあります。いち消費者として自分が愛着を持っているブランドについて、ロイヤル化したきっかけを考えてみるだけでも、顧客理解の重要性がわかると思います。

奥谷:まずは、顧客理解が大切ですね。行動的にはロイヤルティが高くてエンゲージメントがあるように見えても、企業側の幻想ということもありますから。例えば、「MUJI passport」ユーザーを対象とした調査を大学の先生方と行ったところ、私たちが考えていた「素材へのこだわりへの共感」といった言葉はあまりなく、店舗が好きだからというコメントが多く見受けられました。品質へのこだわりを理解して購入されているはず、というのは企業側が抱くエンゲージメントの幻想だったわけです。

加藤:幻想で多いのは機能的価値には共感しているというケースだと思いますが、機能だけだと同程度の価値を提供する他のブランドが出てくれば、スイッチされかねません。

真のエンゲージメントとは、情緒的な価値への共感があってこそ実現すると思いますが、購買をはじめとする顧客の行動分析を基軸とした従来のロイヤルティプログラムでは、顧客が情緒的な価値を感じ、真のエンゲージメントの構築に至るような提案はできていないというのが、私たちが指摘する課題のひとつです。「経済的ロイヤルティ」「行動ロイヤルティ」だけでなく「心理的ロイヤルティ」まで含めた顧客分析が必要と考えています。

奥谷:米国のエアロバイクのPelotonの事例は「心理的ロイヤルティ」の参考になりそうです。Pelotonはエアロバイクの販売と合わせてトレーニング用のライブコンテンツを提供する新興企業です。

経済的価値を高めようと考えればバイクの販売数を増やし、使える場所を増やすなど、ハードウェアの拡大に向くでしょうが、同社はライブコンテンツの提供やトレーナーの拡充に力を入れている。そして、このトレーナーがユーザーと情緒的なつながりをつくり、ユーザー同士の結びつきもつくっていく。B with C with Cという関係性がつくれているのです。

加藤:上手いですね。日本企業は経済的価値に対する意識が強いので、こうした事例を参考にすべきですね。

奥谷:日本企業は自前主義の発想が強いので、他者をも巻き込んだ包括的な経済圏をつくることには苦手意識があるのかもしれません。その点、グローバル企業は進んでいます。例えば、今年のCESに初出展したデルタ航空。デジタルシフトを推進する取り組みが紹介されていましたが、それらの多くが他社技術を使ったもの。自前主義にこだわることなく、お客さまが求める体験提供のためには他社とも組み、いかに早く動くかという「We are the first mover」の精神が大切なのだと理解しました。

加藤:Holistic Experienceの提供を考えると、1社だけでできることには限界がありますよね。

奥谷:情緒的な価値を提供しようとすれば、おのずとモノからコトへと移り変わっていきますから。同じような価値を持つ他社と連携する必要がでてくるでしょう。

加藤:最近、同じ課題に対する解決という価値を提供する企業同士が手を組む事例が増えてきていると感じています。こうしたロイヤルティ経済圏というべきものが日本でも広がっていきそうですし、そこに情緒的なつながりをつくるHolistic Experienceを実現するヒントがありそうです。

対談を終えて

今回の対談は日本企業においても新規獲得重視型から既存顧客の維持・発展型へと変化してきているという前提のもと、進みました。「経済的ロイヤルティ」「行動ロイヤルティ」だけでなく「心理的ロイヤルティ」も重視すべきという私たちの考えと、「Holistic Experience」という概念には共通点があり、真のエンゲージメント確立の方向性も見えてきました。

既存顧客に向き合うというと一見、守りの姿勢に聞こえるかもしれません。しかし奥谷さんは「守りだけでなく、攻めの既存顧客戦略が大切になる」と指摘。現在、新型コロナウイルス感染症の影響で企業活動に制約が生まれ、新規顧客の獲得は難しい側面もあります。今のような危機の中においても、自社のロイヤル顧客が誰かがわかっていて、さらにつながりを持てていれば、攻めの経営もできるはず。ロイヤル顧客の経営資源としての価値を改めて感じました(加藤希尊)。

チーターデジタルとは?

1998年に米国で創業し現在、日本を含む世界13カ国、26拠点で事業を展開。2017年にExactTarget、Salesforceのエグゼクティブバイスプレジデントを歴任したサミール・カジ氏がグローバルCEOに就任し、新生チーターデジタルを結成。次世代の顧客エンゲージメントソリューション「Customer Engagement Suite」を開発し、すでにケロッグ、シティバンク、レッドブル、コカ・コーラなどで導入実績がある。「Customer Engagement Suite」は成熟化する市場環境に適応した、新しい思想を持つソリューションで、見込顧客の獲得からロイヤル化まですべての機能を内包する。日本においては2019年12月から新たな経営陣が参画し、2020年からソリューションの提供を開始した。

 



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