「鍋つゆ」は男性もターゲット? ビッグデータ解析でこれまで見えなかった顧客が見える

どうすればターゲットではない消費者のインサイトまで把握できるか?

—三越伊勢丹では、商品開発に生かす取り組みを行ったそうですね。

マーケティング活動においては、広告・販促だけでなく、より川上の企画・開発、生産、物流までデータを使って支援できると考えていますが、三越伊勢丹さんでは、商品の企画・開発において取り組みを行いました。

商品・開発においては、それぞれの企業ならではのプロセスがあると思いますが、共通で聞くのが「既知の顧客のニーズを探るだけでは、限界がある」とか、「調査サンプルに偏りが出てしまう」とか「調査自体に時間がかかる」といった課題です。

三越伊勢丹さんでも、これまでの手法で新商品は開発できているけれど、新しい手法にチャレンジしてみたいということで声をかけていただきました。このケースでは、私たちのデータのなかでも検索と知恵袋を利用。商品の対象者は、20~30代のママ。絞られたセグメントだったため、既存の調査手法では調査サンプルの母数の確保が難しいという課題もあったのだと思います。調査サンプルの母数が確保できる点は、私たちのデータの強みだと思います。

■三越伊勢丹の商品開発事例

 
—ビッグデータを用いた消費者ニーズの分析は、人の勘に頼るだけでなく、商品のヒットの確率を高めるために利用したいという目的、またまったくこれまで想定しなかったようなインサイトを見つけたいという目的の2パターンがあるように思います。

そうですね。これまでの延長線では出てこないようなアイデアを発見したいというケースもありますし、すでに出ているアイデアの中から成功確率の高そうなものを選びたいというケースの2パターンがあります。特にアイデアを絞り込むプロセスにおいて使われる場合には、データがあることで意思決定の根拠になるという声を聞きます。

—これまでにない新しいアイデアを見つけるためのデータ活用の具体的な事例はありますか。

ユニークな取り組みとして、ミツカンさんの事例があります。この時のデータ分析は、「鍋つゆ」を対象に行いました。ミツカンさんでは、これまで長く、女性の方を対象にマーケティング活動を行っていました。

ところが、私たちのデータで分析してみたところ、キャンプで鍋をつくる機会があること、またそのケースでは男性の検索が多いことがわかり、男性に向けたキャンプシーンでの鍋づくりという訴求ができるのでは、という新しい仮説を立てることができました。そもそも主婦層がターゲットと考えていたら、あえて男性を対象に、調査をしようなんて思いつきませんよね。こういう気づきはビッグデータ解析だからこそ得られたものだと思います。

通常の調査だと、ターゲット外にまで広く聞くのはコスト的に難しい。しかも、聞ける調査項目は多くて30個程度。その点、私たちはすでにあるデータを解析しているので、深く聞くというより、遡って深く掘り下げていくという感じでしょうか。

—データを基点にした経営の意思決定が実現する組織になるというのは、企業におけるデジタルトランスフォーメーションの第一歩の取り組みと思います。導入されている企業では、そうしたデータ利活用のカルチャーが定着し始めているのでしょうか。

まさに、私たちがしたいのはそうした支援です。ただ、カルチャーとして根付くには、まだ時間が必要だと感じています。まずは単発で取り組んで成果を出して、その積み重ねで定着するまで支援できたらと考えています。

—事業会社の方だけでなく、事業会社のマーケティング活動を支援する広告会社、コンサルティング会社などでは利用されていないのでしょうか。

事業会社の方に直接利用いただくだけでなく、広告会社やコンサルティング会社の方に間に入っていただくと、よりデータ利活用が進んでいくと考えています。そこで、4月中旬に広告会社やコンサルティング会社の方にクライアント企業への提案に利用していただける新プランの提供を開始する予定です(※編集部注:本取材は3月に行いました。すでに同サービスはリリース済みです)。

ヤフー データソリューション事業本部 本部長
谷口博基氏

 

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