【関連記事】「『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』刊行記念/これからの広告エージェンシーはどうあるべきか(前編)」はこちら
総合エージェンシーとデジタルの思考が掛け合わされば、新しいチャレンジができる
川上:小霜さんは、これまでにさまざまなヒットCMやヒットキャンペーンを生み出していますが、どのようにしてヒットを生み出してこられたのでしょうか。
小霜:僕が広告業界に入ったのはバブルの直前だから、時代背景もあったと思います。20代のころは広告賞に応募して、とにかく賞を取るということばかりやっていました。ただバブルが弾けた後はお遊びをやっている場合じゃないというムードもあったりして、きちんと売らなければならなくなった。その中で、広告で物が売れるとクライアントが喜んでくれるわけですよ。30代になってから賞を取ってもあまり嬉しくなかったけれど、物を売ってクライアントが喜んでくれると僕も嬉しい。そういう単純な原理でやってきていますね。
川上:今の新入社員や若手のクリエイターにアドバイスするとしたら?
小霜:時代背景が違うので一概には言えませんが、若いころは賞を目指したっていいと思います。どんな方向性であっても、一生懸命考えることがその人の能力を向上させますから。
先ほど、エージェンシーの役割はマーケットの変化を読んで次の打ち手を提案することだと言いましたが、クリエイティブを提案するにしても、今のマーケットや経済がどうなってるのかが分かっていなければ、底の浅い提案しかできないと思っています。
ただ、若手にそこまで背負わせるのは無理だし、必要ないと思うんです。それよりも企画力を身に付ける方が先。そういう能力を鍛えるための場として、賞があるのだと思いますしね。問題はその先で、30代、40代になって賞、賞と言っていても仕方ない。広告クリエイターのあるべきキャリアパスみたいなものが提示できればいいのかもしれないですね。
一番良くないのは、分かったような気になって適当につくってしまうこと。今はデジタルが入ってきてABテストが簡単にできるから、何か適当に書いて比較すればいいんでしょとなりがち。本来はよく考えて、仮説としてこれが確からしいけれど、こっちの可能性も捨てがたい、だからテストをしようということであるべきだと思うんですけどね。
川上:僕もそれはすごく感じています。特にダイレクト系のクリエイティブの現場では、ABテストをすることがもはや目的になっていて、本来は90点台のハイレベルな戦いをABテストでするべきなのに、10点台や20点台のローレベルな戦いになってしまっている。そこは変えたいですね。
小霜:お金の取り方の問題も絡んでくると考えています。ハイレベルな戦いに向けてカロリーをかけて考える、そして90点を持ってくる、だからそこに対して対価を請求する。広告主も、その価値を認めて払ってあげるというふうにしなければダメだと思います。
例えば「まずい、もう一杯!」の青汁は、コピーが効いて大きく伸びたと思うんです。ダイレクト販売系で言えば、かつてチラシは、本当にクリエイティブに力を入れてABテストをしていました。僕もチラシでABテストをやるために半年くらいかけて何度も打ち合わせをしていたことがあります。
ウェブも同じようにすればいいのにと思うんですよね。デジタルが入ってくるやいなや10点同士のクリエイティブでABテストをやって、バナーの背景は緑よりも赤の方がクリックレート1%伸びました、みたいなことをやっている。それを続ければ、結局どのクリエイティブも同じになってしまいます。
川上:まさにそうだと思います。そこで総合エージェンシーが培ってきた、人をどう感動させるか、どういう気持ちにさせるかというクリエイティブの思考回路が生きてくる。どう刈り取るかというところに、どう感動させるか、どう好きにさせるかが掛け合わさったときに、新しいチャレンジができるのではないかと思いますね。
電通デジタルのクリエイティブ部門は、半分が電通のクリエイティブ局から来た純粋な総合クリエイターで、半分がデジタル専業代理店の、ダイレクトのクリエイティブをゴリゴリにつくっていた人たちから構成されています。今はこれを同じフロアにまとめ、互いに交わりながら仕事をしてもらっているのですが、結構お互いに学ぶことが多いんです。
特に、コピーライターという職種に触れたことがないダイレクト系の人たちは、コピーはこういう形でたくさん書き分けられるんだ、それならこういうバナーにしようといったように、シナジーが生まれていますね。