リーダーシップと「共感」のゆくえ
Forbesは4月13日の記事で、物理学者でもあるドイツのメルケル首相の“Truth(現実と向き合う力)”、台湾の蔡英文総統の“Decisiveness(決断力)”、ノルウェーのソールバルグ首相の“Love(慈しみの心)”などを彼女たちのリーダーシップのキーワードとして紹介しました。
5月3日のEGYPTIAN STREETSでは、女性リーダーたちが「コミュニケーションの言葉を再定義している」として、“simple(シンプル)” “straight forward(ストレート)” “connection(つながり)” “empathitic(共感)”などの特徴を挙げています。
CNN BUSINESSは5月5日の記事で、世界の女性リーダーが新型コロナウィルス感染症の拡大をより効果的に管理していると結論づける十分なデータはないものの、この傾向は無視できないと報じました。また“compassion(思いやり)” “care(気遣い)” “concern(心配り)” “respect(尊敬)” “equality(平等)”が変革をもたらすリーダーシップのスタイルだとする研究を紹介しています。
The Atlanticは5月6日の記事で、少し趣の異なるコメントを掲載しました。記者ヘレン・ルイス氏は2008年の世界金融危機に触れながら、「リーマン・ブラザーズがリーマン・シスターズだったなら、この暴落は起こらなかっただろう(If only Lehman Brothers had been Lehman Sisters, the crash would not have happened)」などというような推論は、まだ不十分であると論じているのです。
ルイス氏は女性リーダーがより優れている理由として「共感力」を挙げながら(women leaders are better because they are “empathetic” )、この議論は、多くの成功した男性リーダーがその共感力のために賞賛されているという事実を無視していると指摘しました(This argument also ignores the fact that many successful male leaders have been praised for their empathy)。
一方、4月22日のThe Guardianで、コロナ禍における「共感の欠如(Lacking empathy)」を報じられたのは、トランプ大統領です。
共感する力は、世界を変える力になる。
動物行動学者フランス・ドゥ・ヴァールは『共感の時代へ(THE AGE OF EMPATHY)』で、冒頭から2008年の世界金融危機について触れ、「共感こそが私たちの時代の最大のテーマであり、それはバラク・オバマの演説にも反映されている」と述べています。
リーマン・ブラザーズの経営破綻が2008年9月15日。バラク・オバマ氏がアメリカ合衆国大統領選挙で勝利したのは同年11月4日。オバマ氏の共感性の高い言葉が、不安の広がる当時のアメリカで受け容れられたのかもしれません。
CNNは5月9日、トランプ大統領のコロナ禍への対応について、オバマ氏が“an absolute chaotic disaster(大惨事)”と批判したことを報じました。
さらにオバマ氏の発言は続きます。「利己的、自民族中心的、分断的、敵対的。私たちが闘っているのは、長期におよぶその風潮です(What we’re fighting against is these long-term trends in which being selfish, being tribal, being divided, and seeing others as an enemy)」
コロナ禍で人と人、国と国の分断が危惧される今、オバマ氏の言葉とトランプ大統領の言葉は対極にあるように感じられます。
オバマ氏は、その名も“Importance of Empathy(共感がいのち)”と題した演説を2013年に行っています。その動画はオバマ氏のこんなメッセージではじまります。
“Empathy is a quality of character that can change the world”
(共感する力は、世界を変える力になる)
私事ですが、アメリカ英語のスピーキングを勉強するのに誰を参考にすればいいかと、ニューヨークにあるコロンビア大学大学院の博士課程で研究するアメリカ人女性に質問したところ、“Barack(バラク・オバマ)”と即答されたことがあります。
この数日(本コラム執筆は5月13日)、オバマ氏が逮捕されるかもしれないという大きなニュースがにわかに話題になっています。ここでは詳細を割愛しますが、1972年に起きたウォーターゲート事件をもじって、“#ObamaGate(オバマゲート)”という言葉がTwitterでトレンド入りしました。
本コラムは「言葉」を観察することが目的です。今後オバマ氏の身に何が起きるか現時点ではわかりません。しかし、これまでの彼の言葉に、コロナ禍で求められている共感力が豊富に備わっていたことは確かだと言えるでしょう。
次回は本連載の最終回。「ポストコロナ コロナで変わる新しい世界の言葉」と題して、言葉のコミュニケーションの未来を考えてみたいと思います。