ポップアップストアを起点に、新しいビジネスをつくる

【前回コラム】「ブランドの未来をプロトタイピングする場」はこちら

前回は、新しい製品、サービスの提供には欠かせない「試作モデル」と同じく、ポップアップストアはブランドの未来をつくるための重要なプロトタイピングの場であることをお話しました。ターゲティングした見込み客に実際に体験してもらい、声を反映させて、最後には新サービスとして事業拡張ができれば理想です。今回は前回に引き続き「Lipton Fruits in Tea」を例に、ポップアップストアの活用法を中長期的なビジネスのトランスフォームという側面から考えてみようと思います。
※現在の状況がおちついたら、是非体験ブランディングに役立てていただきたいです。

ポップアップストアは“入り口”。ブランドの未来からバックキャストして考える

前回、ポップアップストアは体験ブランディングの“入り口”であり、そこから先に長い道があると述べました。ポップアップストアは初めの一歩として「新しい体験価値を試す場」「プロトタイプを世に問う場」として有効な手段ですが、それ自体はブランディングのゴールではないからです。

体験ブランディングの最終ゴールは、これまでの「ブランド」と「人」との関係をアップデートする「新しい体験価値」をつくり出すことです。これからの生活に、かけがえのないものとしてブランドが存在するために、ポップアップストアで試した新しい体験価値を日常に浸透させるための仕組みをクリエイティブする必要があります。

つまり、予めブランドの未来をイメージし、ゴールからバックキャストして施策を考える作業が不可欠であり、その施策を未来のビジネス化へと前進させていかなければいけないということです。

「Lipton Fruits in Tea」では、企画当初から紅茶ビジネスに革新を起こすことを念頭におき、中長期のクリエイティブを組み立てました。当然、プロジェクトがスタートして新しい事業につながるまでには、数年単位の時間と多角的なアプローチが必要でした。

ポップアップストアのヒットで人々とブランドの関係性が変わった

「Lipton Fruits in Tea」がローンチしたのは5年前の2016年のこと。それ以前は「紅茶」が若者の間で話題になることはほぼありませんでした。コンビニで紅茶といえば健康志向の無糖紅茶とレモンティー、ミルクティーのペットボトルぐらい。紅茶は奥様たちが自宅で花柄ティーカップで飲むものというのが一般的なイメージで、この構図は100年以上も変わっていなかったのです。

しかし、2016年の夏から、その不動の構図が目に見えて変化しました。

Fruits in Teaが表参道に若者が大行列をつくり、夏のトレンドワードに突如登場して以来、コンビニにはフルーツのビジュアルをあしらったさまざまな紅茶商品が並び始めましたし、タピオカミルクティーも大流行し、たった4、5年で紅茶の景色がガラリと変わりました。いまや紅茶は“外で飲む飲み物”として存在感のある選択肢として、新しい世代の生活導線に溶け込んできた感があります。紅茶を自分が好きなアレンジで飲むという新しい体験価値が世の中に伝播し、「紅茶」と「人」の関係性を変えたのです。

2016年のFruits in Tea OMOTESANDO。開店前の毎日の行列は、最長150mまでになった。
待ち時間短縮とメニューの説明のため、あらかじめメニュー表や注文票を配布した。

この進化を実現した背景の一つには、「Fruits in Tea」がもたらすお客さまの体験価値の創造を徹底的にぶれずに継続したことが大きいと思います。1年目の成功後、すぐにフォーマットや見た目で多面的な話題化の拡張を狙うのではなく、繰り返し「Fruits in Tea」のプロトタイピングを行い、市場の評価を得ながら、小さな改善と進化を続けたのです。ポップアップストアをベースにお客さまと一緒になって体験価値をアップデートしていく-そんなサイクルが生まれました。

5年の間、ダイレクトに向き合ったお客さまは、紅茶の革新を共に果たしたパートナーであり、その価値を世の中に広げてくれた広報担当のような存在でした。このように、消費者の行動を変えてしまうほど強い体験価値がクリエイティブできれば、未来の新しいビジネスの可能性が見えてくるのです。

次ページ 「プロトタイプがビジネストランスフォームを起こすまで」へ続く

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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