こんな時でも、こんな時だからこそ 僕らのモチベーションをあげてくれる広告たち

【前回コラム】「「コロナは、あっという間に、すべてに感染した」絶望の中、ココロを灯す広告を」はこちら

前回のコラムでは、新型コロナウイルスのパンデミックが、ここアメリカではどのように広がっていったのかを振り返りつつ、その間にブランドのコミュニケーションはどう変化していったかをまとめてみました。まだまだ現在進行形で、状況は日々刻々と変化。世間の関心事も徐々に「ウィズコロナ」など、ポストコロナの世界観にも言及され始めていますが、それについては、また別の機会にまとめていきたいと思います。

今回のコラムは、コロナに関してはちょっと閑話休題。読者の方々もコロナ疲れ、自粛疲れが溜まってきたことでしょう。ですので今日は、ここ1年ほどの間で、こちらアメリカで話題になったキャンペーンや目立った広告について、楽しく語りたいと思います!

広告は、こんな時でも、こんな時だからこそ僕らのモチベーションをあげてくれる。©︎123RF

ライアン・レイノルズから目が離せない

大きなエージェンシーで名をあげたクリエイティブが、自分たちの会社をつくっていく。それがいままでは主流のクリエイティブブティックの誕生の仕方だったと思います。しかし、ここ数年の間で、その流れも変化してきました。

というのも、メディア会社やPR会社から生まれるもの、ソーシャルメディアやインフルエンサーサイドから発展するものなどさまざまな背景を持った組織や人々から、クリエイティブディレクターやクリエイティブブティックが誕生するようになったのです。その中でも、ある意味アメリカ独特なものとして、セレブリティから生まれるクリエイティブブティックの存在があると思います。

例えば、今年の始めに惜しくもこの世を去ってしまったコービー・ブライアントがオーナーの1人だった「Zambezi」。スポーツマーケティングに特化したクリエイティブブティックから始まりいまではさまざまな企業のブランディングを担当しています。

そして、元トッププロレスラーで「ロック様」で知られる俳優ドウェイン・ジョンソンが始めた「Seven Bucks」があります。「Seven Bucks」では、彼本人が出演するさまざまな広告やコンテンツの企画・制作はもちろん、それ以外の領域にも拡大していっています。

それらセレブリティ発のクリエイティブブティックの中で、間違いなく面白くて効果的な広告やコンテンツをつくっているのは、ライアン・レイノルズです。映画『デッドプール』で主演とプロデュースを務め、他のマーベル映画とは一線を画したユーモアや内輪ネタ、お金はかけずにアイデアを駆使したトレイラーなどのマーケティング活動を実施し、世界的な大ヒットにつなげました。

そしてそこで得た知見と持ち前の彼のユーモア性、ストーリーテリング能力を、今度は彼がオーナーであるポートランド生まれの「Aviation Gin(他のジンより強いジュニパー風味のお酒)」のマーケティングにおいても発揮しています。是非一度、Aviation GinのオフィシャルYouTubeチャンネルをじっくり見てください。

どのコンテンツも、笑わずにはいられない出来栄えです。例えば、盟友ヒュー・ジャックマンの経営するコーヒーブランドとのコラボ動画。ヴァージン・アトランティック航空で彼のジンが提供されることになったことを伝えるためにリチャード・ブランソンを巻き込んでの大掛かりなアナウンス動画なんてものも。

さらには、Samsungの大型ディスプレイ、彼の新作映画、Aviation Gin、その3つの商品をシンプルかつ笑えるテレビCMに仕立てたり、他のブランドの広告で炎上してしまった女優をすぐさま起用した「新しいスタート」を訴えるCMをつくったり…。これらのクリエイティブすべてに一貫しているのが、「難しいこと考えずに、このお酒で前向きに楽しみましょう」というお酒本来の楽しさを伝えることだと思います。

セレブリティならではの感性が、広告クリエイティブにも発揮されている。©︎123RF

そして、デッドプールとAviation Ginでの成功を機に彼の右腕としてすべてのコンテンツ制作に関わってきたクリエイティブディレクターと「Maximum Effort Production」を設立。最近では(これもライアン・レイノルズがオーナーの)「Mint Mobile」のマーケティング活動も手がけています。

Mint MobileとはMVNO(仮想移動体通信事業者)の会社で、日本でいうところのUQモバイルのようなサービスを行なっています。そのサービスを紹介する動画がYouTubeでも見られますので、ぜひ、「#MintMobile」で検索してみてください。

見れば一目瞭然なのですが、彼の「本当はMint Mobileのための壮大なフィルムを撮るつもりだったんだけど、ここまでしか撮影できませんでした」という言い訳からスタートし、その後は世界中の人々がいま経験している、ビデオ会議風の映像とプレゼンテーションデックを使っての説明動画になっています。

ハリウッド俳優のライアン・レイノルズ。新たにクリエイティブブティックを立ち上げるなど、さらなる躍進が期待される。©︎123RF

この動画にも彼のユーモアは遺憾なく発揮されています。シェアしているデスクトップフォルダからプレゼンデック上の文言や画像まで、細部にわたってユーモアが散りばめられています。

ロックダウンの状況を利用した広告は他にもたくさんありますが、それを“笑い”に変換し、それと同時に見ている人を嫌な気分にさせないさじ加減は、学ぶところが多いです。それと、正直に言ってこのMint Mobileは、まだまだ知名度が低いマイナーブランドのひとつなので、とにかく知名度を伸ばすためには上手くいっているのではないかと思います。

これまでも、有名人がブランドやプロダクトのオーナーになることはありましたし、いわゆるセレブリティ広告も数多く存在してきました。けれどもその両方でありながら、かつ広告やマーケティング手法を熟知し、それをある意味“嘲笑う”かのように展開するライアン・レイノルズの活動に、これからもますます目が離せません。

次ページ 「それでもやっぱり、アウトドアメディアが好き」へ続く

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曽原 剛(Death of Bad)
曽原 剛(Death of Bad)

1999年博報堂入社。コピーライターとして7年間在籍したのち、2006年にロサンゼルスのTBWAに移籍。Appleや日産など数多くの有名企業のクリエイティブを手掛けた。その後、2014年に日本に帰国し、J. Walter Thompson Japan のエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターに就任。2018年には、ロサンゼルスのTBWA\Media Arts Lab時代の同僚、ジョン・ランカリック氏と共同でクリエイティブスタジオ「Death of Bad」を立ち上げた。

曽原 剛(Death of Bad)

1999年博報堂入社。コピーライターとして7年間在籍したのち、2006年にロサンゼルスのTBWAに移籍。Appleや日産など数多くの有名企業のクリエイティブを手掛けた。その後、2014年に日本に帰国し、J. Walter Thompson Japan のエグゼクティブ クリエイティブ ディレクターに就任。2018年には、ロサンゼルスのTBWA\Media Arts Lab時代の同僚、ジョン・ランカリック氏と共同でクリエイティブスタジオ「Death of Bad」を立ち上げた。

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「ロサンゼルスの現場から。~日本語しかできなかったコピーライターが、気付いたら、LAでクリエイティブスタジオを設立していた話~」バックナンバー

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