コロナで紡がれた世界の言葉たち
新型コロナウィルスが発生してからしばらく、多くの国々が喫緊の医療、経済、政治について集中的に論じました。そんな中、ドイツのメルケル首相による「今こそ芸術が必要だ」という宣言は注目を浴び、多くの人から賞賛されました。
本コラムのテーマは「世界の言葉」です。言葉を用いた世界の芸術、クリエイティブを少し見ていきましょう。
ノーベル文学賞作家ガルシア・マルケスの名作『百年の孤独』になぞらえて、あらゆる人が自粛中の孤独について100語で書き下ろす『百語の孤独(100 Words of Solitude)』いうプロジェクトが行われています。3月28日に始まり、現在でも続いています。
Spotifyは“CORONA VIRUS SHIT IS REAL(コロナはガチやば)”というタイトルのプレイリストを作りました。“Coronavirus”という新曲から始まり、ドアーズの“Strange Days”、クイーンの“Under Pressure”、ホイットニー・ヒューストンの“I Wanna Dance with Somebody”と続き、ザ・ポリスの“Don’t Stand So Close To Me”で終わるというユニークなものです。
次の図は、コロナ以降に発表されたコロナや隔離をテーマとした曲の歌詞を私のチームで分析したものです。Bigramという手法で、歌詞の中で隣り合わせになる「2つの単語」について解析しました。対象ジャンルはロック、ポップ、ヒップホップ、カントリーなど様々です。
登場する頻度が高いほど矢印の色が濃くなります。これを見ると、“for”→“me”や“I”→“believe”という単語の並びがコロナをテーマにした曲の中で多いことがわかります。“for me(私のために)”も“I believe(強く思う・信じる)”も一般的な言い回しですが、コロナの禍中で頻出していることを知ると、曲を作るクリエイターやそのターゲットとなる人々の心境が浮かび上がってきます。
コロナと世界の創造力
世界経済フォーラムは第四次産業革命において必要な能力トップ10を発表しています。2015年の第10位から2020年の第3位に上昇したのは、クリエイティビティ(創造力)です。
クリエイティビティはAIに取って代わられないと、以前からかまびすしく言われています。ロンドン・ビジネス・スクールが4月8日に発表した「Covid-19への対応がクリエイティビティについて教えてくれること(What the response to Covid-19 can teach us about creativity)」という記事によると、「クリエイティビティを構成する3つの要素」の中で、世界中の経営者たちにとって最も重要なのは「モチベーション」となっています。
新型コロナウィルスは自分の力で解決できる問題ではなく、多くの人は「隔離すること」しかなす術がありません。無力に感じてしまう期間が長く続いていると言えます。そんな中、ロンドン・ビジネス・スクールでは世界中のビジネスエグゼクティブたちに、モチベーションを促すことと、それによってクリエイティビティを発揮することの重要性をメッセージしています。
Appleは4月10日に“Creativity goes on(創造力は止まらない)”というショートムービーを発表しました。iPhone、iPad、Macなどを使って家の中で、学習、遊び、エクササイズ、いろんな表現活動をする人々の姿が収められています。最後にあらわれる“Creativity goes on”というシンプルなメッセージが、Appleらしく力強く響きます。
また、“Today at Apple at home”ではアップルストアのクリエイティブプロたちによる「創造力を広げる手軽で楽しいプロジェクト」を見ることができます。たとえば、ロンドンのリージェントストリート店で働くロージーという女性は「自宅で創造性を発揮するためのアイデア」を提案。家庭にある身近なものを使ってビートを作ること、すなわち「文字通りハウスミュージック」を作ろうと呼びかけています。
これらの動画を見ていると、自ら何かをやってみようというモチベーションが湧いてくるように私は思います。そんな、人のモチベーションをそっと促すようなメッセージが、ポストコロナでは求められているのかもしれません。