第3回 ポストコロナ コロナで変わる新しい世界の言葉

数千万回再生される「大いなる気づき」

ロンドン在住のある若者がコロナを機に作ったショートムービーが世界中で話題になっています。映像作家で詩人のトム・ロバーツ氏による『The Great Realisation(大いなる気づき)』は4月29日に公開され、YouTubeだけでも600万回近く再生されており(5月25日現在)、ワシントンポストによると他のメディアも含めてその再生回数は数千万回を超えると言われています。

Probably Tomfoolery「The Great Realisation」

出演はロバーツ氏本人。子どもの声も彼の家族によるものです。

少し長くなりますが、詩人でもあるロバーツ氏による美しい英語の脚本を紹介します。(以下の日本語訳は私によるものです)

Tell me the one about the virus again, then I’ll go to bed.
子ども:あのウイルスのおはなしまたして。そうしたら寝るから。
 
But my boy, you’re growing weary, sleepy thoughts about your head.
パパ:でももう疲れて眠くてしょうがないんじゃない?
 
Please! That one’s my favourite. I promise just once more.
子ども:おねがい、あのおはなし大すきなの。もう一回だけ。
 
Okay, snuggle down my boy, though I know you know full well
パパ:いいよ、じゃあ横になって。もうよく知ってると思うけど。
 
The story starts before then, in a world I once dwelled.
むかしむかし。パパがくらしていた、今とはすこし違う世界のこと。
 
It was a world of waste and wonder, of poverty and plenty.
その世界は、モノと驚きに満ちあふれ、貧しさと豊かさが混ざりあっていました。
 
Back before we understood why hindsight’s 2020.
2020年に、みんなが気づく前のこと。
 
You see the people came up with companies to trade across all lands.
人々は国をこえて商売しようと、会社をつくりました。
 
But they swelled and got bigger than we could ever have planned.
でもそれは思ったよりも、大きくふくれ上がっていきました。
 
We’d always had our wants, but now it got so quick.
ほしいものはなんでも、すぐに手に入りました。
 
You could have everything you dreamed of in a day and with a click.
クリックひとつで、ビックリする早さで。
 
We noticed families had stopped talking. That’s not to say they never spoke.
家族の会話はなくなりました。話すとしても、ほんの少し。
 
But the meaning must have melted and the work life balance broke.
大事な話はしなくなって、仕事と生活のバランスもなくなって。
 
And the children’s eyes got squarer and every toddler had a phone.
子どもは画面を見るばかり。生まれてすぐからスマホばかり。
 
They filtered out the imperfections but amidst the noise, they felt alone.
足りないものはなくなったのに、孤独を感じてさみしくなった気がしました。
 
And every day the sky grew thicker, till we couldn’t see the stars.
日ごとに空は汚くなって、夜ごとに星は見えなくなって。
 
So we flew in planes to find them while down below we filled our cars.
雲の上でないと星は見えず、空の下は車しか見えませんでした。
 
We’d drive around all day in circles. We’d forgotten how to run.
車で走ってばっかりで、自分が走れることをすっかり忘れて。
 
We swapped the grass for tarmac, shrunk the parks till there were none.
きれいな道を作るために、きれいな自然や公園は壊されました。
 
We filled the sea with plastic because our waste was never capped.
ゴミはどこでも捨てられたから、海はプラスチックだらけでした。
 
Until each day when you went fishing, you’d pull them out already wrapped.
そんな海ではビニールまみれの魚が釣れました。
 
And while we drank and smoked and gambled, our leaders taught us why,
政治家たちは口々に、酒もタバコもギャンブルも、みんなにすすめて。
 
It’s best to not upset the lobbies, more convenient to die.
政治なんか気にせずに、死んでいくのを、みんなにすすめて。
 
But then in 2020, a new virus came our way.
そして、2020年がやってきました。新しいウイルスがやってきました。
 
The governments reacted and told us all to hide away.
国は人々に、家から出ないように命令しました。
 
But while we all were hidden, amidst the fear and all the while,
恐怖におびえ、家から出ない、そのあいだ
 
The people dusted off their instincts. They remembered how to smile.
みんな、いろんなことを思い出しました。しぜんに笑うこと。
 
They started clapping to say thank you, and calling up their mums.
拍手をして、ありがとうを言うこと。お母さんに電話すること。
 
And while the cars keys were gathering dust, they would look forward to their runs.
車のキーにはホコリがつもる一方、外を走り回る楽しみがつのりました。
 
And with the sky less full of planes, the earth began to breathe.
空から飛行機が少なくなって、地球はまた呼吸できるようになりました。
 
And the beaches brought new wildlife that scattered off into the seas.
かつて海へと追いやられたいきものたちが、浜辺に戻ってきました。
 
Some people started dancing, some were singing, some were baking.
ダンスをしたり、歌ったり、パンを焼いたり。
 
We’d grown so used to bad news but some good news was in the making.
悪いニュースになれてしまったけれど、良いニュースもたまにありました。
 
And so when we found the cure and were allowed to go outside,
やがてウイルスの治療法が見つかり、人々はまた出かけるようになりました。
 
We all preferred the world we found to the one we’d left behind.
だれもが、ふと思いました。以前よりも、この新しい世界のほうが、素晴らしいと。
 
Old habits became extinct, and they made way for the new.
かつての世界は消えさって、新しいくらしがはじまりました。
 
And every simple act of kindness was now given its due.
それは、どんなに小さなやさしさにも、みんなが感謝をするようなくらしだったとさ。
 
But why did it take a virus to bring the people back together?
子ども:でも、みんながそれを思い出すのに、どうしてウイルスが必要だったの?
 
Well, sometimes, you got to get sick, my boy, before you start feeling better.
パパ:人はね、元気になるために、病気にならなければいけない時もあるんだ。
 
Now lie down, and dream of tomorrow, and all the things that we can do.
さあ、もうおやすみ。明日の夢を見よう。やりたいことを心に描いてみよう。
 
And who knows, maybe if you dream strong enough, make some of them will come true.
強く願えば、かなう夢もあるかもしれない。
 
We now call it the Great Realisation, and yes, since then there have been many.
今ではみんな、「大いなる気づき」と呼んでいる。それからもいろんなことがあったけど
 
But that’s the story of how it started, and why hindsight’s 2020.
このウイルスがきっかけだった。そして2020年が、気づきの始まりだったんだ。

次ページ「「希望を伝える」トム・ロバーツ氏の独自インタビュー」へ続く

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小塚泰彦(morph transcreation 共同代表/トランスクリエイター)
小塚泰彦(morph transcreation 共同代表/トランスクリエイター)

2004年博報堂入社。コピーライターを経て、デザイナーに。ソーシャルデザインに従事しながら、博報堂生活総合研究所研究員を経て、ブランドデザイン部門でコピーライターとアートディレクターを兼務。2012年退社し渡英。Royal College of Art(英国王立芸術大学院)イノベーション・デザイン・エンジニアリング学科MPhilを中退して、リサーチコンサルティング会社FlamingoのリサーチャーだったKieran Hollandと共同でロンドンで創業。「トランスレーションからトランスクリエーション®へ」を標榜して株式会社 morph transcreationを東京で設立。主にグローバル企業の経営企画、ブランド戦略、マーケティング、PR、広告に関する複数言語の言葉のクリエイティブ・コンサルティングを行う。東京とロンドンを拠点として、アトランタやニューヨークにも主要メンバーを持ち、日・英・米・中・韓・独などマルチリンガルなチーム。
会社HP:https://morphtc.com

小塚泰彦(morph transcreation 共同代表/トランスクリエイター)

2004年博報堂入社。コピーライターを経て、デザイナーに。ソーシャルデザインに従事しながら、博報堂生活総合研究所研究員を経て、ブランドデザイン部門でコピーライターとアートディレクターを兼務。2012年退社し渡英。Royal College of Art(英国王立芸術大学院)イノベーション・デザイン・エンジニアリング学科MPhilを中退して、リサーチコンサルティング会社FlamingoのリサーチャーだったKieran Hollandと共同でロンドンで創業。「トランスレーションからトランスクリエーション®へ」を標榜して株式会社 morph transcreationを東京で設立。主にグローバル企業の経営企画、ブランド戦略、マーケティング、PR、広告に関する複数言語の言葉のクリエイティブ・コンサルティングを行う。東京とロンドンを拠点として、アトランタやニューヨークにも主要メンバーを持ち、日・英・米・中・韓・独などマルチリンガルなチーム。
会社HP:https://morphtc.com

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