個人が持ち運びできるラジオがさらに、再びリビングへ
かつてはラジオ受信機で聴かれていたラジオ。生活者のメディア環境が変わる中、聴取率は年々下がり、若年層のラジオ離れが進んでいった。そんな中、地上波ラジオの補完として、また新規ユーザーの獲得を狙って生まれたradiko(ラジコ)。
ラジオを電波ではなくインターネットで配信し、スマートフォンやパソコンを通じてラジオを聴くことを可能にした。「もともとは、高層ビルの影響などによる難聴取問題を解決するために、在京・在阪民間放送局が中心になって立ち上げたサービス。ただし、狙いはそれだけではなく、放送局の垣根を超えてラジオ業界が団結し、多くの人にラジオコンテンツを届けていくことが設立の目的です」とradiko 業務推進室長の坂谷温氏は話す。
その意味では、この10年で意図通りの展開を迎えたと言えるだろう。民放のラジオ放送局101局中、radikoに100局が加盟(2020年4月時点)。昨年4月からは、NHKも正式にradikoに参加し、まさに「ラジオのプラットフォーム」へとステージを上げた。ユーザー数は月間750万人。この10年の間に、PC・スマートフォンから、テレビ、スマートスピーカーへと、ラジコを活用できるデバイスの幅も広がっている。
「当初はPCを介した利用が圧倒的に多かったラジコですが、昨年実施したユーザーアンケートからは、現在はユーザーの9割がスマートフォンでラジコを聴いているという結果に。もちろん複数のデバイスを併用するユーザーもいます。いまユーザーで最も多いのは、移動中にスマートフォンでラジコを聴くスタイルですが、家でネットやゲームをする間の“ながら聴き”も増えています。ここ2年ほどで、スマートスピーカーが登場するなど、IoT機器、音声系デバイスも多様化。今後は家庭のリビングで、IoT機器を通じてラジオコンテンツに触れる機会が増えていくことを期待しています」と坂谷氏は話す。
通信に乗せることで、ラジオの新たな可能性が生まれた
2014年には、月額350円(税別)でエリアを超えて全国のラジオ番組を聴くことができる「エリアフリー」のサービスも開始。通信コストを回収するためのビジネスアイデアでもあったが、地上波では難しい画期的なサービスで、想定よりも有料ユーザー数は伸びた。2016年には、過去1週間に放送された番組をいつでも聴ける「タイムフリー」のサービスも開始。場所も時間も超えて、ラジオの可能性が拡張された。
「SNSやWebメディアでラジオ番組が話題になり、新規ユーザーの聴取につながるケースも増えています。最近だと、2019年に南海キャンディーズの山里亮太さんが結婚会見をされた直後に、ご自身の番組で心境を語りました。リアルタイムでも9万人のユーザーが番組を聴いていましたが、翌日以降、Webメディアでラジオでの発言が多々取り上げられたことで、タイムフリーでの聴取も増え、合計で30万人ほどの方々に番組を聴いていただきました」(坂谷氏)。
タイムフリーのサービスができたことで、気になったタレントやパーソナリティーについて検索した時に番組を知って聴く、SNSで友人がシェアした番組を聴く、といったシーンが生まれた。
「ラジコでもシェアボタンを実装しました。シェアしたり検索できたりしても、その番組が聴けなければ、ラジオユーザーをみすみす逃すことになる。現在はデパ地下で言うところの“試食”ができる環境が整ってきました。月間750万人のユーザーのうち、タイムフリーを活用しているユーザーが300万人くらい。一定の成果があったと思います」と坂谷氏。試し聴きや、リンクでラジオ番組をシェアすることが可能になり、ラジオの広告出稿の営業や検討シーンでも活用されているようだ。
エリアの枠がなくなったことで、意外な活用のされ方も生まれた。2018年、北海道胆振東部地震の発生直後には、北海道内でのラジコ聴取が通常時の27倍にまで上昇。道内での聴取は、停電の中、被害状況や津波の有無などの情報を得るためだと推測されるが、意外にも北海道外の地域からも、北海道エリアのラジオ番組のラジコ聴取が通常時の10倍強まで伸びたのだ。
「北海道に知り合いがいるが、連絡も取れず安否確認が取れないなどの状態の中で、その土地の情報を得ようとした人たちが多くいたのだと思います」(坂谷氏)。ラジオは災害時の情報源でもあるが、スマートフォンであれば外出中に万が一被災しても情報を得ることができる。0円でできる防災対策として、ラジコを広めていく試みもしているという。
一方、ダウンロード後、いかにラジオを継続して聴いてもらうか、という観点で言うと、未だ課題はあるようだ。「ラジコのアプリダウンロード数は、約3400万。アプリのダウンロード数は多いが、新規ユーザーが離れていく数も多い。ラジコだからこそ生まれる新たな聴取シーンを生かして、新規獲得のための施策、継続のための施策にも力を入れている」と坂谷氏。
朝の通勤・通学中の人をターゲットに、耳だけでニュースが聴けるという切り口で交通広告を打ったり、競馬場のパドックでイヤホンを配り、ラジコでパドック解説を聴いてもらったり、といった施策も打ちながら、幅広い層に対してラジオ番組との接点をつくってきた。
ラジコが目指す「オーディオコンテンツロジスティクス」
そして10周年を迎えた今、radikoは「世界を広げる音がある」というコーポレートメッセージを掲げる。「目に見えない音だからこそ、想像力を掻き立て、人それぞれにシーンを描かせる力を持っています。実は映像よりも広がりのある世界が、音にはある。その音の世界を、ラジコを通じて広げ、届けていきたい」と坂谷氏。
音声指示できるスマートスピーカーや、パーソナライズ化し情報を届けられるデジタル環境は、その後押しになる。「今後radikoが挑戦するのは、ラジオコンテンツを細かなキーワード、細かな単位で分割し、整理していくこと。これができれば、『ある話題を知りたい』『この人の意見を聞きたい』などの細かな指示やニーズに応え、聴きたい部分だけを届けることができるかもしれません」(坂谷氏)。
目指すは、コンテンツを貯めて、整理し、届ける「オーディオコンテンツロジスティクス」。進化し続けるradikoの今後に注目だ。
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