逆風を追い風にして、100億円の資金調達に成功
中村:最近のスタートアップの成長とファイナンスについてですけど、そもそも普通の会社は数千万の資金調達からスタートしますよね。そして徐々に1年後とかに、2〜3億円を調達して、伸びれば数十億円とか、少しずつステップアップした資金調達をするイメージ。同時に企業の時価総額も上がって、もしかしたら上場とかも狙えるかも!よしここでもっとユーザーを増やしたい!となり、CMを打とうと考えるのが一般的な感覚なはずなんですよ。それで言うと、堀江くんの場合は割と速攻で信じられない金額を調達して、速攻で CM にぶっ込んだんですよね。
堀江:アプリをローンチした年、従業員が10人くらいだったかな、年間の広告費として40億円出していましたね。
中村:(笑)。
堀江:未だにどうかしていたなと思うのは、10億円調達して3カ月で使って、また15億円調達して3カ月で使って、またまた30億円調達して3カ月で使って、みたいにしていたこと。ハイペースで常に資金をかき集め続けていたので、一歩間違えたら倒産していましたね。だから、その1年は今この瞬間にまた新しいアイデアを思いつくかもしれないとか、もっといいクリエイティブを思いつくかもしれないとか常に考えていました。切羽詰った状況の中に自分を置いていたので、ある意味でドラゴンボールの「精神と時の部屋」みたいな感じで成長しました(笑)。
中村:なるほどね。
堀江:当時は会社が潰れかけだと周りから思われていましたし。絶対CMは成功しないとか、アプリも上手くいくわけないとか、色々言われていたんですけど、その風当たりがむしろ美味しかったですね。僕はこれを「少年ジャンプ理論」と考えているんですけど、アンダードッグは応援してもらえるんです。100億円集めるとなった時に、本当に真面目で優等生みたいな人がやってもうまくいかなかったと思います。僕、業界の先輩方にも当時めちゃくちゃ喧嘩売っていて、つい最近やっと和解してるんですけど(笑)。
権八:そうなんだ(笑)。
堀江:僕なんかこの業界を出たとしても、もっと言えば別に干されてもいいと思って、競合と戦いまくったんですよね。そしたら、周りから見ると「面白い若手出てきたな」となって。当時のホリエモンさんの時以来、ベンチャー企業の経営者って大人しくなっていたよねと感じられていたので。
中村:確かに。
権八:ホリエモン以来だね。
中村:騒動があってからね。
堀江:世の中の流れを見て、「次に生まれるスターってどういうキャラクターで、どういう奴だったら面白いかな?」と察するのも、大きなひとつの能力です。起業家はそこまで考えないといけないと思っています。というよりも、その能力がある人の方が勝てるはず。例えば、世の中が激しめの獲得型の広告に振っている時に、逆にブランディング系の広告に寄せたりだとか。つまり、流行りは何かのアンチテーゼで生まれ続けていると思っています。
今、流行っているものも、単純に作品が良かったからではなくて、そこまでの流れの中でできた流行りに対するアンチテーゼだからめちゃくちゃ世の中にウケるということが往々にしてあります。起業家にも同じことが言えるはずだから、「100億円集めるためにはどういうキャラクターが存在するだろう?」と考えて、徹底的にやり続けていたら、めちゃくちゃ強気のキャラみたいになっちゃって(笑)。
でも、お金を出してくれる人からは、「こういうやつに出資したい。闘争心のある奴に世の中を変えてほしいんだ」みたいに言われて。想いが強くて、正義感が強くて、ビジョナリーというか。僕にお金を出してくれる人は、個人で1億円以上出してくれている人もいます。その人たちいわく、「1億円の超面白い漫画を読んでいるような感覚だから、失敗してもいいよ」って。
権八:へ〜!すごいですね!
堀江:肝は座っていたなと思いますね。全部無知だからできたことですけど。
中村:なるほどな〜。
堀江:業界の常識を知っていたら、100億円も集めようと思わないですよ。今振り返ると、バカだなぁって思います。ただ、ある意味そういう奴って強くないですか?
権八:うん、確かに強いね。
堀江:常識を知らない奴とか本気で振り切った奴は、進み続ければめちゃくちゃリスペクトされるはず。最初はあいつのこと嫌いだなとか、蹴落としたいなとか、そう思う若手がいるとするじゃないですか?その若手が数年やり続けて、必死に戦っているところを見ていると、気づいたら尊敬に変わっている事って結構あるはずなんですよね。
中村:うんうん!
権八:あるね、それ。
堀江:本気で生きてりゃ殺気立つこともありますよ。でも実は、そういう姿が人を動かしているはずなんです。20代の僕みたいな少年にもお金を出してくれて、ひとつの奇跡を起こす、きっかけになっている。やはり、合理性だけだと難しくて、エモーショナルな部分も必要なんです。ファイナンスはある意味マーケティングですね。「この人はどういう風になったら、僕にお金を出したいと思うんだろう」って。だから、人のことをすごく見ている気がします。