マーケターが語るコロナウイルスと「コロナビール」の新しいナラティブ
ここまでの流れはネガティブな風評に対して、「コロナビール」を売る立場の販売会社が事実を提示して、デマとして否定したことで終わりを迎えたように見えました。ですが、ここでは風評は事実ではなかったとしても、実際のところ、コロナウイルスの感染拡大と「コロナビール」の消費に関係があるのか、ないのかについては、まだ結論が出ていません。
そこにマーケティング関係者が新しいナラティブを与えます。それは「コロナウイルスが『コロナビール』の消費を押し上げている」という、これまでとは全く真逆の意見でした。
3月4日にマーケティングコンサルタントのマーク・リットソン氏がコラムで、コロナウイルスの拡大は「コロナビール」の売上に貢献していると語ったのです。また、同じくブランドコンサルタントのデヴィッド・テイラー氏も、コロナウイルス感染拡大によって「コロナビール」のPR効果を指摘し、その理由はブランドのSalience(傑出性)に貢献するからであると説明したのです。
2020年3月4日
マーケティングコンサルタントのマーク・リットソンが自身のコラムでコロナウイルスはこのビールブランドを傷つけるどころか、むしろ売り上げに貢献していると指摘。
2020年3月9日
ブランドコンサルタントのデヴィッド・テイラーがBrand Gymのブログで「コロナビール」を含むパブリシティのニュースがPRとして良いものかを論じて、コロナ禍の「コロナビール」は「OKアプローチ」であり、コロナウイルスの感染拡大によって「コロナビール」のブランドのSalienceに貢献したと指摘。
このSalienceとは、カテゴリーで最初に思い浮かぶブランドとしての想起の強さや認知度の高さを示す言葉です。それはたとえば「ビールと言えばどのような銘柄が思い浮かびますか?」という質問に対して、「コロナビール」と答える率が高いというものです。そして一般的にはこの想起が高ければ高いほど、ブランドの市場シェアが相関して高いと言われます。なぜならこのSalienceが高ければ、ビールを買おう、飲もうと思ったときに思い出しやすい、想起しやすい、という効果があるからです。
これまでの事実は米国が中心でしたが、この事実を日本でも検証したコンサルタントの方がいました。それは坂口孝則氏で、3月25日の「コロナビール「実売値」に見えた風評被害のウソ」という記事で、スーパーマーケットの実売データを調べ、実際に「コロナビール」の売上が上がっていることを指摘し、米国での5WPRに端を発するデマを否定しました。そして坂口氏はこのデマが出た理由と売上が上がった理由をそれぞれあげています。
「コロナビール」の風評被害が広がった理由
理由):名称ではなく単に中国が及ぼす業界全体への影響:世界的な自粛モードによる飲食店全体での影響が風評に結びついたため。「コロナビール」の売上が上がった理由
理由1):無意識的認知:「コロナ」「コロナ」の連呼が無意識に刷り込まれ、スーパーマーケット等で買い物をする際に影響を及ぼした。
理由2):ファンの存在:「コロナビール」のファンたちは、いまこそ応援、買い支えるべきだと購買に走った可能性。
坂口氏が提示した理由のひとつ目は、米国のマーケターが語っているSalienceと同じ理由ですが、もうひとつ新しいナラティブを加えています。それは「コロナ禍によるマイナスインパクトを抑えるために、ファン層が買い支えていたから」というものです。そして坂口氏はこの見方を自らも支持しています。